新学術領域「生物ナビゲーションのシステム科学」ニュースレター Vol.3(2018年12月号)

代表からのメッセージ

平成28年度に発足した「生物移動情報学」領域は、生物の移動に関するさまざまな情報を計測し、分析して、理解することを目的としています。その理解した結果に基づいて、新しいデバイスを開発してモデルを検証することに特徴があります。工学(A01)、データ科学(A02)、生態学(B01)、神経科学(B02)の各班が緊密に連携し、議論して研究を推進します。
平成30年度は、6月8日、9日に領域会議を名古屋工業大学で開催し、研究の進展状況を確認するとともに、さらなる連携のための情報交換を行いました。アドバイザーの荒井先生、小田先生にはスライドを用いた長めのご講演をいただき、生態学と電気生理の歴史を含め、たいへん勉強になりました。7月には、国際会議(HCII2018)でOSを開催し、海外研究者との交流を深めることができました。
9月5日、6日に同志社大学にて国際シンポジウムを実施しました。9月4日の近畿地方台風直撃ですべての交通手段が遮断されましたが、実行委員長の飛龍さんをはじめとする実行委員会メンバーの獅子奮迅の努力により、予定通りの日程で開催することができました。招待講演の先生方も計画班メンバーの奇跡的なマネジメントによって無事にたどり着いていただき、「なぜたどり着けるの?」を科学する領域の本気を(私は遅刻したので)SNSでリアルタイム実況を鑑賞させていただきました。9月27日、28日には蔵王で合宿を行い、定例になった相談会とグループワークを実施し、出席者から高評価をいただくことができました。
本年度は、「ログボット」が本格的に稼働し、マイコン搭載データロガーとして着実に成果をあげています。ログボットの公募研究グループへの提供も進んでいます。神経班と生態班のデータ取得とデータ解析も進み、多様な生物のナビゲーションが「モデル化」されています。この領域では「計測、分析、理解、検証のループをまわし、モデルを精緻化することが目標です」と前号のニュースレターに書きました。一年たちましたが、対象生物・現象の広がりとデータ解析手法の多様性を領域の会議を通して具体的に体験することができました。その過程で、この領域の目標を明確に位置づけるのは、このモデルの持つ「仮説発見性」なのだと確信しました。
計画班、公募班、アドバイザー、招待講演いただいた先生方、学生さんたち、全員に感謝するとともに、「見たことのない新学術」の創生が着実に進化していることを実感しています。

 

2018年6月領域会議報告

烏山昌幸(名古屋工業大学工学部)@A02データ科学竹内班

平成30年6月8日(金)と9日(土)に,名古屋工業大学にて新学術「生物移動情報学」の領域会議が開催されました.2日間の間に16件の口頭発表と51件のポスター発表が行われ,のべ100名ほどの参加者により,領域を形成する制御工学,生態学,神経科学,データ科学など多様な視点から生物移動情報解析に関する活発な議論が行われました.

これまでの領域会議でも様々な成果が報告されてきましたが,領域立ち上げから2年が経過し中間報告を経て,各グループでの取り組みがいよいよ本格的に具体化されてきました.また,領域内で異分野の研究者同士が協力することで当初計画になかった展開が生まれてきたと話されていた方が複数名いらっしゃったのは印象的でした.こういった展開はおそらくこの領域が目指すものの一つであり,まさに「新」学術領域を形成する過程としてあるべき姿が体現されているように思います.領域代表の橋本先生をはじめ何人かの計画班の先生からは,各班相互の若手弟子入りや非フィールドワーカーのフィールドワーク体験が強く推奨されました.このような取り組みは上で述べたような良い流れをますます加速させるのではないでしょうか.

一方で,異分野間連携の難しさが存在することもまた事実かと思います.例えば,データ科学班で画像解析のプロである玉木先生(広島大学)がコウモリの軌跡解析研究に関連して,粘ることが重要であったとコメントをされました.これは私自身の経験でもありますが,分野をまたいだ研究者間の議論では互いが無意識に持つ前提の違いなどからしばしばすれ違いがおき,そしてそのすれ違い自体に気がつけないことが多々あります.このような事態を防ぐことは難しいですが,少なくとも,時間をかけ議論や試行錯誤を繰り返すこと(つまり粘ること)が必要条件であり,見逃していた何かを再発見したり新たな方向性を見出す可能性が高まるように思います.この2年で生まれた成果の報告を聞くなかでそのようなことを再認識した会議であり,中間報告後の後半戦で異分野間の死の谷(?)を乗り越えてどのような成果が生まれてくるのか期待の高まりを強く感じる会議でもありました.

平川翼(中部大学)@A02データ科学玉木班

平成30年6月8日(金)および9日(土)に,名古屋工業大学にて,本領域の領域会議が開催されました.本領域会議は昨年度の領域会議に引き続き,計画班と公募班との合同での開催となり,16件の口頭発表と51件のポスター発表がありました.

昨年度の領域会議では,制御工学班およびデータ科学班からは開発途中の新型デバイスやデータ解析の基礎技術の紹介があり,生態学班および神経科学班からは様々な生物の行動を解析する研究の紹介が多く,分野の垣根を越えた研究はまだまだ始まったばかりという印象でした.しかし,今年度の領域会議では,その垣根を超えて取り組まれた研究成果が数多く報告され,本領域の研究の進展を感じさせられる会議でした.特に,昨年度は開発段階にあった革新的ロギングデバイス「ログボット」を実際にウミネコに装着した結果では,従来では知り得なかった飛行中の虫の捕食映像が撮影できたという報告を受けて,新たな技術開発によって実世界の様々な現象を理解し,問題を解決する糸口になることを改めて感じました.その他にも,フィールドワークに情報系の研究者が参加したり,他の研究室や研究所に弟子入り(インターン)したりと,昨年度の領域会議で評価委員の小田洋一先生(名古屋大学)がおっしゃられていた「情報系の研究者が実際にフィールドに行って欲しい」というご意見が実際に行われ,活発な交流がなされていると感じました.

会議の最後には,評価委員の小田洋一先生(名古屋大学)と荒井修亮先生(京都大学)から講評を頂きました.その中で荒井先生がログボットは「バイオロギングの再発明」おっしゃられたことが印象に残っています.活発な交流活動と研究を通じて,生態学・神経科学分野における新たな発見や,工学分野における革新的な技術開発へとつながる可能性が感じられた領域会でした.また,私自身にとっても,様々な方からデータ解析などのご相談を受け,新たな研究のチャンスに恵まれた会議でした.

国際シンポジウム参加報告

Part 1 鈴木 宏和(名古屋大学大学院 環境学研究科 地球環境科学専攻 生態学講座)@B01生態学依田班

2018年9月5 – 6日にかけて京都にある同志社大学寒梅館にて開かれた本領域初の国際シンポジウムSymposium on Systems Science of Bio-Navigation 2018に参加し、ポスター発表してきました。前日の9月4日には、非常に強い勢力の台風21号が京都に襲来しており、会場である同志社大学でも門が倒れたり、空路が乱れ一部の方の到着が遅れたりと、様々な影響が現れていました。そのような混乱の中、運営の方々の努力により、2日間で総勢130名の参加、口頭講演が12題、ポスター発表が47題行うことができました。(不謹慎ですが、個人的には激しい台風の中、鳥がどのようにあの暴風を避けていたか、あるいは飛んでいなかったかが気になっていました笑)
幅広い学問領域の、国内外の研究者が一堂に会し、生態学分野から始まった口頭発表は、神経学、工学、データ科学と続き、非常に刺激的な研究発表と議論の場となりました。神経学×工学、生態学×データ科学×工学といったように異分野融合の発表も行われており、異分野同士の研究者間の距離がどんどん縮まってきていることを肌で感じました。質疑応答も盛んで、時間一杯まで質疑が続けられることが多々あり、活発な意見交換の場が設けられていました。数ある素晴らしい講演の中でも、バイオロギングの祖であるRory Wilson氏 (Swansea大学) が、加速度などの大量のデータを手に入れた場合にどうするのかについて触れられていたことが印象的でした。今後、バイオロギングデバイスの進化がさらに進み、様々なセンサーで詳細な行動データが得られるようになるにつれて、得られたデータの扱いに困ることが増えていくかもしれません。そういった場合に、本領域には気軽に相談できるフィールドができていることがとても頼もしく感じました。
他の学会では見たことが無かった、データ科学ならではの面白い企画がありました。1日目の口頭講演後に、オオミズナギドリの移動経路データから性別を推定する正答率を競うコンペティションAnimal Behavior Challenge 2018の結果発表がありました。2位に正答率で大きな差をつけていた1位だった方が残念ながら取り下げられ、論文にて発表されるということでした。正答率に大きな差があったのはなぜなのか、経路のどこに性差が現れているのか、公式の発表が待ち遠しいです。
最後になりましたが、台風で大変な中シンポジウムの準備・運営をしていただいた皆様に感謝申し上げます。また、9月6日未明の北海道胆振東部地震で被災された方々の1日でも早い復旧をお祈り申し上げます。

Part 2 Ilya(東北大学工学部)@A01制御工学橋本班

An international symposium on systems science of bio-navigation was held on 5th and 6th of September 2018. This event was supported by Japan’s Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology (MEXT), and hosted by Doshisha University in Kyoto, Japan. The general scope of this conference was ranging from animal ecology and neuroscience to control engineering of smart sensor systems and data science. This event also hosted several invited speakers from leading international and local research institutes. For me, as a doctoral student of information science, and researching on seabirds’ navigation behaviors, this event was a great opportunity to exchange new ideas with the community, sharing my work and collecting feedback about it. Besides, I had a chance to attend the talks given by Rory Wilson (Swansea University, UK) and John Krumm (Microsoft Research, USA). Yet, there was another chain of circumstances leading to this event that made it extraordinary experience for me. 

An uninvited guest was making its way to the city of Kyoto, just a day before the event, right at my long-preplanned arrival. It was super typhoon Jebi 2.0 which was hurling through, leaving devastation behind. I was keen to arrive before the storm rather than putting off my trip. As unlikely it seemed, my flight to Osaka’s Kansai Airport was not cancelled and had been scheduled to arrive an hour or two before the typhoon made landfall in the area. While boarding the flight at Sendai airport, I could feel the sense of urgency in flight crew to fly the plane to the destination as quickly as possible.
After miraculously landing at Kansai Airport, my railway journey was interrupted at Nagaoka-tenjin station in Muko city neighboring Kyoto, where I took shelter and waited the storm out. I continued on-foot as damaged power lines had prevented train service restoration. News of loss of lives had deeply saddened me. Damaged buildings and Sky Gate bridge, flooded airport, all was disheartening, but, there was something much more noticeably promising. It was spirited restoration process which was underway just right after the storm.
It was about midnight that I arrived at my destination. On the next day I took subway to the conference’s venue. To my surprise, everything was as usual, as if all I had witnessed the night before, was just a nightmare. The sense of resilience was radiant, and it was indeed inspiring to see how people had bounced back from such an immensely destructive disaster.
Arriving at the venue, I was warmly welcomed by staff and promptly guided to the lecture hall. The typhoon caused few shuffles in the program, but it had been mainly remained intact. I was a bit late in John Krumm’s talk after all. Right after, amazing presentations by Kazunori Ohno and Rory Wilson, respectively about cyber-enhanced canine and animal movement, were followed. Though, the most productive part was the poster presentation session in the afternoon. There were numerous creative ideas and approaches presented regarding study of animal movement and behaviors, ranging from fruit flies to whales. It was a great opportunity for every participant to exchange comments about their works. On the second day, the participants were presented with excellent talks about inner workings of fruit flies’ and silk moths’ brains. After the event’s closing remarks, I was confident that the lengthy and eventful journey to Kyoto was indeed worth it.
In the end, this trip was an exceptional and unforgettable experience for me. Kind and friendly atmosphere and staff, such a scenic location and the most importantly, rich scientific contents of presentations, all solidly contributed to the merits of this event. I would like to appreciate the organizers and sponsors for allowing this to happen.

 

第3回若手合宿参加報告

Part 1 大迫・星野・谷隅(同志社大学大学院 脳科学研究科)@B02神経科学高橋班

2018年9月27、28日に行われた生物移動情報学若手合宿にて、異なる四つの領域間(制御工学班、データ科学班、生物学班、神経科学班)の研究者が、それぞれの分野の研究内容を報告し、レクチャーや議論を通して多くの交流が行われました。
(大迫)私は神経科学班として本合宿に参加し、現在行っている動物の行動に対する意思決定の研究について発表しました。制御工学班やデータ科学班の研究者からは、多くの説明変数から最適な動物の行動や神経表象に対する特徴抽出を行う方法などのアドバイスをいただき、生物学班の研究者からは、実験室内では行えない大規模なバイオロギングによるナビゲーション研究を紹介していただき、実験室内では難しい複雑な自然環境の中での動物の行動原理を学ぶことができました。こういった多角的な視点による動物行動理解へのアプローチを知ることは、研究に対するアイデアを広げ、前進させるきっかけとなりました。
(星野)若手合宿の白眉はグループワークであると私は考えます。グループワークでは全く異なる研究分野で、研究対象となるモデル動物もすべて異なったメンバーが一同に集められます。このようなメンバーで研究プロジェクトを立ち上げるというのは、非常に知的でエキサイティングな体験でした。
星野の所属するグループでは、解明したナビゲーションのメカニズムを人間の実生活に応用するという観点から、ナビゲーション戦略アシストデバイスの提案を行いました。このシステムでは、データ科学の軌跡データの解析の知見と、制御工学のログボットの考え方を人間に適用したセンシングを組み合わせることによって、人間が現在適切なナビゲーション戦略をとっているかどうかを評価します。システムが不適切なナビゲーション戦略を取っている人間を検出すると、アラートと適切なナビゲーション戦略を提案します。以上の研究は領域越境的であり、星野個人では始めることが出来ないものでした。生物移動情報学の知見を広く応用した、非常に将来性のある研究計画を立案することができたと考えています。
(谷隅)自身の研究発表やグループワークだけでなく、何気ない生活時間にも合宿ならではの楽しみポイントがありました。食事時間には、初対面者同士での会話が生まれやすいよう席の配置に工夫がなされており、夕食後には軽食をつまみながらラフに会話できる機会も設けられていました。こういったイベントは、人見知りの私にとっても気軽に話し出せるきっかけとなり、異分野交流を楽しめる有意義な時間でした。また今回は、初心者にも理解できる機械学習に関する講習会も開催され、データ科学分野での最新の知見や、Deep learningの実用方法についてわかりやすい説明を受ける事ができました。講習会を通じて、自身の実験データを普段とは異なった視点で見つめ直すことに繋がり、新しい解析方法を思いつくことができました。
若手合宿は異なる学術領域間での研究者交流により、自身の研究を発展させる新たな発想が得られる上、学問領域の垣根を超えた共同研究が生まれる可能性もある素晴らしい機会でした。今後も、新学術領域での研究がさらなる盛り上がりを見せることを楽しみにしています。

Part 2 山崎(大阪大学大学院理学研究科)@B02神経科学木村班

今年の生物移動情報学若手合宿は 2018年9月27日・28日に山形県蔵王温泉で行われました。私は昨年に引き続き合宿に参加させて頂きました。

私が今回の合宿に参加した目的は2つあって、1つは現在解析している野生動物のデータがどのように得られたのかを知ることでした。これに関しては、2日目の講習会でロガーの使い方に関する講演があり、実際に使ってみることもできて、いかに高度なことをやっているのか分かりました。また講習会など公式な行事の他に、実際に現地でロガーを付けている生態班の方がたまたま相部屋で、食事や入浴をしながらいかに苦労してデータを取っているかということを教えて頂けたことが、予想を上回って有意義な経験になりました。普段の学会なのでは、結果の議論をしてもそこまで突っ込んだ細かい話はなかなか聞くことがないので、寝食を共にする合宿ならではの貴重な経験でした。

2つ目の目的は、さまざまな研究特に情報科学的解析に対する理解を深めるということでした。この領域には情報や機械、生態といった様々な背景を持った方が参加されていて、研究に対する考え方から手法まで、かなり異なる立場の方のお話を聞く機会が多々あります。そしてこちらも合宿であるおかげで、分からない事があれば食事中や宴会中でも機会を見つけてじっくりと質問する事ができます。始めた頃はなかなか理解することができなかった分野のことも徐々に理解できるようになってきており、将来神経科学の研究を進めて行く上で貴重な糧になりました。例えば若手ワークショップで逆強化学習が話題にあがったのですが、領域で色々なお話を聞いてきたためにある程度理解することができ、数年前のウエットな研究ばかりしていた頃では考えられない進歩だと思います。

また何より、合宿に参加をすることでこのような広い分野の方々と親睦を深める事ができたのが何よりの財産です。今後もこの素晴らしい行事が開催されることを願ってやみません。