新学術領域「生物ナビゲーションのシステム科学」ニュースレター Vol.2(2018年2月号)

目次

1年目の活動について代表からのメッセージ

平成28年度に発足した「生物移動情報学」領域は、生物の移動に関するさまざまな情報を計測し、分析して、理解することを目的としています。さらに、デバイスを開発してその理解したモデルを検証することに特徴があります。工学(A01)、データ科学(A02)、生態学(B01)、神経科学(B02)の各班が緊密に連携し、議論して研究を推進します。

平成29年度より公募の19課題が加わり、さらに連携が強化されました。6月3日、4日の領域会議では各課題の発表に加え、学生のポスター発表と「秘密道具」のデモを行いました。研究のツールを共有するためには、とても貴重な機会であったと思います。さらに、9月9日、10日には若手合宿を行い、互いのデータを持ち寄り、その処理方法について議論し、データ科学を得意とするメンバーによる相談会も実施しました。グループワークも本質的な議論を発展させるのに有益でした。

その他にも各グループで計画班と公募班の情報交換会合を7月20日(主催:木村、神経科学)、8月7日(玉木、データ科学)、8月29日(依田、生態学)を実施しており、活発な議論が行われました。また、国際的活動として8月6日に ICMA (Int. Conf. on Mechatronics Applications) にてワークショップを開催しました。

工学チームが開発した「ログボット」(ロギングロボット)を、生態チームとデータ科学チームが海鳥に装着し、行動解析に基づくビデオ録画を実現しており、着実に具体的な成果をあげています。このログボットは公募研究グループにも配布する予定であり、計画班と公募班の連携も進んでいます。

アドバイザーとしては荒井修亮先生(京大)、小田洋一先生(名大)、合原一幸先生(東大)にご就任いただきました。荒井先生と小田先生には、お忙しい中、領域会議にご出席いただき、全ての発表を聞いていただきました。
また、『大事だと思う事は、現場に出向く事。「生物実験での必要性」や「データ分析の必要性」などを、共同研究相手が理解する事。』
『この領域が目指しているのは、生態学と神経科学の長年の夢である。』
『ナビを中心として進める大型プロジェクトは生態学でも珍しく、こうした融合領域がはじまったのは素晴らしい』など、きびしくも温かいコメントを頂戴し、計画・公募の枠を越えた連携の大切さをご指摘いただきました。

計測、分析、理解、検証のループをまわし、モデルを精緻化することが本領域の目標ですが、ワンラウンド回るところまでたどり着きました。メンバー全員に感謝するとともに、これからも「見たことのない新学術」の創生に邁進する決意です。

公募研究計画の紹介

A01制御工学班

A01地表徘徊性動物のナビゲーション様式の観察のための無限平面装置の開発

生物のナビゲーション原理を解明するには,屋内の整備された人工環境における動物の行動観察が不可欠です.たとえば,トレッドミル(ルームランナー)を拡張した機械で無限平面を生成し,その上で地表徘徊性動物の行動観察を行うことで,長時間にわたる自由な行動や,外的刺激に対する反応の定量的な観察が可能となります.
しかし既存の無限平面装置は,みぞや傾斜を有する疑似的な平面しか生成できません.そこで本申請課題では,みぞや傾斜の無い完全な平面を有する無限平面装置と,その制御系を開発します.具体的には,伸縮性を有する球形のシートを,たわみ無く水平方向に伸張し,みぞや傾斜の無い表面を形成します.装置に組み込む全方位車輪と回転台を適切に操作することで,無限平面上の観察動物の位置と向きが制御できます.

A01どうぶつタッチ&ゴー:NFCタグ装着の野生動物を誘き出してピッと記録回収する機構

従来の野生動物装着型センサでは, センサ情報の回収には調査員による野生動物自体の物理的な再捕獲が必要となります. つまり実際の調査は, 再捕獲可能な特定個体の移動範囲に限られる問題があるあります. そこで本研究では動物本来の行動と非接触通信(NFC)に着目しました. 本計画は「どうぶつタッチ&ゴー:NFCタグ装着の野生動物を誘き出してピッと記録回収する機構」の実現を目的とします. 具体的には, 「A) NFCタグ装着の動物を誘き出して情報を取得するユビキタス基盤の開発」と「B) NFCタグ装着の動物を誘き出して情報を取得するアニマルウェアラブルの開発」で目的を達成します. 高度なHIにより野生動物装着型センサノードをインターネット接続されたシンクノードまでより効率的かつ安定的に誘き出し, 長時間の非接触型通信により記録回収を実現する物理形状を明らかにします.

A01 研究課題名 長寿命バイオロギングを可能にする振動発電システムの最適設計と実時間最適化

生物の行動を記録するログボットを長寿命化するために,生物が移動する際に発生する振動のエネルギを電力に変換する振動発電を利用する方法が着目されています.ところが,バイオロガーを装着する個体や環境の周波数特性が一定でなく,効率的な振動発電が望めないという困難さが生じます.この課題では,時々刻々と変化する振動周波数に合わせて,発電機構(機械系)と電気回路(電気系)を適切に調整して,発電効率の最適化を行う仕組みを開発します.
1.発電効率の学習最適調整:ログボットのロギングデータに基づいて,振動発電システムの機械的インピーダンスや電気回路のインピーダンス調整によって発電効率を最適化する学習最適調整法を開発します.
2.発電効率の実時間最適化:絶えず変動する振動数に追従してエネルギ変換効率を最大化するように振動発電システムのインピーダンスを実時間で調整する手法を極値探索制御によって確立します.極値探索制御の演算に必要な消費電力を抑える方法などの技術的課題の解決も目指します.

A02データ科学班

A02 低消費電力リアルタイム画像認識実現のためのモバイル深層学習技術

近年,深層学習を用いた画像認識がその圧倒的な性能から注目を集めています.本研究では,生物ナビゲーション分析のための小型ロギングデバイス上に高性能画像認識手法である深層学習ネットワークを載せ,リアルタイム認識を実現することを目的とします.
深層学習による高性画像認識が小型ロギングデバイス上で利用可能となれば,カメラからの映像をリアルタイムで認識しながら必要な情報だけをメモリに記録したり,送信することが可能となります.カメラから得られる映像情報は一般のセンサー情報に比べて情報量が膨大であるため,認識をリアルタイムで行い,適応的に映像を記録することができれば,長期間の連続的な計測を行う場合に大変有効です.
本研究では,生物ロギングデバイスのような低コスト小型デバイス上で,ソフトウェアのみで深層学習による認識を効率的に実行可能とするために,高速化,省メモリ化,高精度化,低消費電力化の観点から研究を行います.

A02 土地鑑のない状況における経路情報収集過程の抽出

スマートフォンの普及により,我々はGPSやWi-Fiなどで現在位置を取得し,地震の周囲の地図の閲覧や現在地から目的地まで経路探索,乗換案内ができるようになりました.しかし,いまだに多くの人は空港や鉄道駅に到着した途端に目的地までの経路や移動手段がわからなくなり,スマートフォンで地図を見たり,空を見上げて方位やビルの位置関係を確認したり,案内板や建物の名称から周囲の様々な情報を得ようとします.そして,最終的には目的地に到達します.本研究では,モバイルセンサやウェアラブルセンサを用いてヒトの身体動作や挙動をリアルタイムにモニタリングすることで,ヒトは目的地に到達するためにどのような情報をどのように収集しているか,迷う人と迷わない人の違いは何かを明らかにします.

A02 大規模群泳行動データセットとインタラクション解析手法の構築

 群れになって整然と泳いでいる魚を水族館で見たことがある方は多いのではないでしょうか.魚たちはどうやって互いにぶつかることなく,群れを乱さずに泳いでいくのでしょう.本研究は,このような疑問に答えることを目指して,映像解析によって遊泳する魚の動きを自動的に獲得し,そのインタラクション(相互作用)の仕組みの解明に貢献することを目標とします.
そのために,水族館や養殖現場の協力を得て様々な対象,様々な環境での群泳行動を捉えた映像を収集します.これに,魚の位置などのデータを人の手で付与し,群泳行動データセットを構築します.このデータセットと,深層学習などの機械学習手法を用いることで,群れの中の魚の動きを自動的に獲得する技術を開発します.

A02 超混雑環境における群集ナビゲーションに関する研究

 オリンピックやワールドカップのような大規模イベントやコミケなどの展示会、野外音楽フェスティバルなど多くの人が集まる場所は常に危険と隣り合わせです。本研究では大規模なイベントに集まる群集のナビゲーションに着目して、状況に合わせて群集への提示情報を動的に制御しながら適切に誘導することで安全で安心なナビゲーションを実現することを目的とします。そのための要素技術として花火大会や避難訓練などの混雑環境において大規模に計測した群集の移動に関するデータから、集団の中での人の混雑回避方法を深層学習によってモデル化し、そのモデルを用いて群集のシミュレーションを行う方法を明らかにします。さらに、それらの群集シミュレーションを利用して動的な情報提示による安全で安心なナビゲーション方法を科学的に明らかにします。

B01生態学班

B01 内的要因および外的要因がツキノワグマのナビゲーションに及ぼす影響評価

 一般的に,動物の行動パターンには外的要因(食物資源など)と内的要因(性別など)が複雑に作用することが知られていますが,それぞれの要因の実際の動物における行動パターンへの影響を個別に評価した事例は限られます.本研究は,野生のツキノワグマの行動パターンに影響する外的要因(食物資源量の多寡)と内的要因(性,齢,季節)を,それぞれ評価することを目的としています.具体的には,以下の仮説を検証する予定です.
仮説1)繁殖期である夏季では,雌雄により行動パターンが異なるのではないか?(オスは積極的な繁殖行動を行うため),仮設2)秋は結実豊凶に伴う食物資源量の変動により,年間で行動パターンが異なるのではないか?(食物が不足する年には,広域に探餌行動を行うため),仮説3)雌雄で行動パターンが異なるのではないか?(行動圏の大きさの違いに伴い,空間認知能力が異なるため).

B01 アサギマダラにおける季節性ナビゲーションの神経行動学“生態学的アプローチ”

 アサギマダラは,春と秋に日本列島に沿って3000キロもの距離を移動するチョウです.彼らが渡りをする時、どのようにして行くべき方向を知るのでしょうか?私たちは,この問いに答えるために,渡りの定位には太陽が作る天空の光情報とそれを受ける複眼の構成との関係を理解することが大切であるという仮説を立て,野外における生態学的研究と神経行動学の実験的研究を組み合わせた計画を立てました.まず、野外で彼らが季節によって飛行する方向に好みがあるかどうかを調べます.次に太陽が作り出す天空の偏光・色・光の強さの勾配が飛行方向の好みに与える影響を,室内の行動実験によって明らかにします.また複眼構成については,まず空の様々な光情報を見るのに特化した領域を特定します.続いて,各領域を構成する個眼の構造とそこにある視細胞と生理学的特性を調べます.以上の異なる研究アプローチから得られる成果を組み合わせてアサギマダラの渡りの仕組みの一旦を明らかにすることを目指します.

B01昆虫のナビゲーションにおける最適戦略の決定メカニズム

多くの動物は自らの方向と移動距離をリアルタイムでモニターする「経路積算型」のナビゲーションと,場所記憶によって脳内に確立されたマップを用いる「認知地図型」のナビゲーションを状況に応じて使い分けると考えられています.このように複数の戦略を併用する能力は正確なナビーションに欠かせないものですが,実際に動物がどのように具現化しているのかは明らかでありません.そこで本研究では、優れたナビゲーション能力を持ち,かつ実験的操作が比較的容易であるミツバチを用いて,経路積算型と認知地図型のナビゲーション戦略の併用による最適な行動発現のメカニズムの解明を目指しています.
具体的には、採餌トンネルを用いてミツバチに複雑なルートを記憶させる訓練を行い,それらのミツバチに種々の視覚刺激を提示した時のルート決定のしくみをフライトシミュレータによって調べることで,複数の戦略に基づくナビゲーションの全容を明らかにしていきます.

B01 ナビゲーション能力を制御するゲノム行動生態学的研究

 本公募研究班では,全ゲノム配列の解読が完了しているコクヌストモドキという名前の甲虫を用いてナビゲーション能力を司る遺伝子領域の解明と,餌や異性にたどり着くための分散,移動歩行能力の解析等を担当します.これまでに私たちは生物の生存戦略にとって根本をなす行動は「動き」であることを行動生態学の手法によって明らかにしてきました.本研究では「動き」を可視化するための工学的解析法を用いて自由に甲虫を歩行させた場合の軌跡を解析することでどのように甲虫の動きが適応と関係しているのかについて解明します.さらに「動き」に対して人為的に育種を施した結果,著しく動きが異なる本種の系統を駆使して,体内で動きを制御している生理活性物質について解析を進めるとともに,「動き」をコントロールする遺伝子領域を特定するために動きの著しく異なる系統においてドーパミンを含むカテコールアミン類等の生体アミンの合成酵素遺伝子や受容体遺伝子,およびそれらのシグナル伝達系に関わる遺伝子の発現について,RNA sequence (RNA Seq)法によって解析を行います.すでに系統間で生体アミンやその他の生理的性質の違いがすでに報告されていることから,これらの性質を含めた網羅的な遺伝子発現の比較を行い発現遺伝子の機能についても調査します.これらの解析によって行動生態学ではブラックボックスとして扱われてきた生理・遺伝子機能を明らかにし,生物が生存繁殖する上で鍵となるナビゲーションに関わる行動生態遺伝子について総合的な理解を目指します. 

B01 ヒトとイヌの混合集団によるナビゲーションモデルの構築

イエイヌ(以下イヌ)には狩猟や子育て等における協働性がみられないというのがこれまでの一般的な見解ですが,一方では,ヒトと双方向的に意思疎通を図りながら作業を行うことができる唯一の動物でもあります.つまり,イヌはヒトの存在によって異種混合集団としての機能を発揮する動物であると考えられます.本研究ではヒトの存在により,イヌの集団移動中の社会構造がどのように構築され,機能するかを明らかにし,最終的にはヒト-イヌの混合集団によるナビゲーションモデルの構築を目指します.まず,実験的場面での集団行動中の社会構造を解析すると同時に,ヒトエージェントの有無条件を設けることと,個体の社会機能に関与するホルモンであるオキシトシンの測定と操作を行うことで,ヒトとイヌの社会構造に影響をおよぼす因子を見出します.さらに,実際の狩猟時における社会構造を明らかにし,ナビゲーションモデルの構築を行います.また,洋犬種と,遺伝的,行動的にオオカミに近いと考えられる日本犬種とのヒトを含めた社会構造を比較することで,イヌの進化・家畜化におけるヒトとの協働関係構築の意義を見出すことも目標にしています.

B01 南極から北極まで渡る飛翔性海鳥のナビゲーション行動の研究

長距離を移動する渡り鳥がどんな環境情報を頼りに目的地までたどり着くのか?特にランドマークに乏しい外洋で海鳥はどうやって進行方向を決めるのか?またどんな手がかりを使って餌となる水中の魚やプランクトンを探すのか?これらは動物のナビゲーション行動にかかわる素朴な疑問ですが、未だに満足のいく答えが得られていません。
私たちは長距離を渡る海鳥から高精度の移動経路データを取得し、移動経路と環境要因の関係をモデリングすることで、これらの疑問に答えることを目指しています。具体的には、オーストラリアで繁殖するハシボソミズナギドリと南極で繁殖するトウゾクカモメにソーラーパネルを搭載したGPS記録計を装着することで、高精度の位置データを長期間にわたり取得することを試みます。これらの海鳥は南半球の繁殖地から北半球まで数千キロ以上を移動することが知られており、本研究では渡り中の移動経路を高精度で記録して、地磁気や海水温、風向風速といった環境要因との関係を探ります。

B02神経科学班

B02 線虫の塩走性行動の包括的理解に向けた全中枢神経活動と行動の高精度同時計測

動物は好みの環境に向かうナビゲーション行動を示しますが,この際に周辺の環境をどのように感じ,判断して,行動しているのでしょうか.本研究では,全中枢神経の活動を観測できる線虫を用いて,この問題に取り組みます.線虫は好みの塩濃度に向かう性質があります.この行動を追跡しながら全中枢神経の活動を計測できる顕微鏡を開発します(①).また撮影された画像中の神経細胞の特徴に基づいて神経細胞を同定し,神経活動を回路図に割り当てることで,情報の流れを神経回路レベルで解析できるようにします(②).さらに行動と相関の強い神経細胞の活動を調べて,行動を予測・再現できる数理モデルを作成し,環境中の情報がどのように処理されて行動を引き起こすかを明らかにします(③).

B02 海馬の場所細胞を生成する神経演算原理の解明

 哺乳類のナビゲーションには、海馬という脳領域の「場所細胞」が重要な役割をになうと考えられています。1971年の発見以来、場所細胞の性質は綿密に調べられてきましたが、場所細胞の活動パターンを生みだす神経回路のメカニズムは不明なままです。そこで本研究は、自由に行動するラットの海馬における大規模神経活動計測により、場所細胞を生みだす神経演算の機構を解明します。具体的には、海馬に64~256点の電極を埋め込み、場所細胞をふくむ100個以上の神経細胞の活動を同時計測し、さらに、これらの細胞のあいだの10,000通り以上のシナプス結合を網羅的に同定します。これにより、どの細胞からどの細胞へと神経活動が伝わることで場所細胞が生み出されるかを明らかにします。

B02 ゼブラフィッシュ摂食行動におけるナビゲーション戦略

ゼブラフィッシュは視覚系が良く発達した昼行性の脊椎動物で,視覚情報に基づいてナビゲーションを行っています.摂食獲行動を観察してみると,探索行動,獲物となる目標物の発見,獲物への接近,輻輳眼球運動による両眼視,獲物の定位,捕獲という一連の過程が存在することがわかります.本研究では,ゼブラフィッシュ稚魚を用いて,捕食行動時のナビゲーション戦略に関与する機能的神経回路を明らかにします.方法論としては,稚魚の獲物探索行動および獲物認識後の目標物へのアプローチをビデオ記録し,画像処理の手法を用いて位置,速度,胴体部の形態,眼球運動(位置)などのパラメータを抽出し,定量的に記述します.神経回路の同定に関しては,脳部域特異的なGal4系統を用いて神経毒を部位特異的に発現させ,探索行動と捕獲行動の際のナビゲーションに与える影響を解析します.また,行動中の神経活動可視化を実現するために,稚魚の胴体の一部を固定しヴァーチャルリアリティ環境を実現します.これにより,探索から獲物の発見,接近,捕獲に至るまでの過程を生み出す脳活動を同定します.

B02 マウスの社会性ナビゲーションの神経基盤の解明

 本研究は, 脳内で社会的文脈の情報処理に関与するといわれる脳深部の候補領域に注目し, その神経回路活動を単一細胞解像度の二光子カルシウムイメージングで可視化することで, 社会的な感覚刺激がひきおこすマウスのナビゲーション行動の神経基盤の理解を目指します. 頭部固定した被験マウスに視覚や嗅覚などの複数のモダリティを介して社会的な感覚刺激を提示することで, マウスの社会性ナビゲーション行動をバーチャルリアリティ環境で再現することを試みます. このバーチャル社会行動を遂行しているときのマウスの神経回路活動を二光子レーザー顕微鏡を用いたカルシウムイメージングで画像化し, 社会行動に関連した活動を示す細胞集団の存在を検証します.

B02 Retrosplenial/Hippocampal interactions during navigation and map selection

The hippocampus and the retrosplenial cortex have been extensively studied in rodents, mostly in terms of contributions to cognition and memory. Data from humans indicates a key role of these structures to navigation, but how these circuits subserve different forms of goal-directed motion remains unclear. Data from rodent physiology and human fMRI experiments have led to the hypothesis that he RSC may serve as an intermediary between regions supporting different navigational strategy and play a crucial role in integrating route-based information with vestibular and self-motion cues. These ideas have yet to be directly tested. Here we will study the bidirectional influence of the RSC and HPC on spatial navigation. We have developed two Cre expressing transgenic mouse lines, one that allow specific genetic access to CA1 pyramidal cells and the other to projection neurons in the RSC (Fig 1A,B). We will combine these mouse lines with our established viral based delivery techniques to express inhibitory DREADD and/or optogenetic channels to transiently silence RSC or CA1 neurons and assess changes both in behavior in a navigational task and in in vivo spatial coding.

B02 ターゲット捕獲運動における、運動系神経回路動作様式の解明

 動物の生存には、餌(ターゲット)を見つけて捕獲するという行動が必須です。本研究では、シンプルな脊椎動物であるゼブラフィッシュ幼魚を用い、餌捕獲運動を司る神経回路の解析を行います。特に、餌捕獲運動の第一フェーズをなす、対餌定位運動(視認識したターゲットに対して体を定位させる運動)の神経基盤の解明を目指します。イメージング、光遺伝学、行動解析を駆使して、特に以下の3つの課題に答えることを目指しています。
1.脳内のどの神経細胞群が対餌定位運動に関わっているのでしょうか?
2.ターン運動はきわめて精緻な運動であることが先行研究により示されています。すなわち、斜め前方の物体に対しては浅いターンを、斜め後方の物体に対しては深いターンを行います。では、ターン運動の強弱は、神経回路内ではどのように表現されているのでしょうか?
3.低餌定位のターン運動に関わる神経細胞群の活動はこの活動に特異的なのでしょうか?それとも、ターン運動全般に活動するのでしょうか?

「トラジェクトリー(軌跡)マイニング分野の紹介」

竹内一郎(A02データ科学グループ 名古屋工業大学/理化学研究所/物質材料研究機構)

はじめに 新学術領域「生物移動情報学」では主に動物の移動を計測・分析し,理解・検証することを目的としています.特に生態学グループでは,野生動物にデータロガーを装着し,動物の移動行動を記録します.本領域では,インテリジェントデータロガー(ログボット)を開発し,詳細な動物の移動行動データの取得を目指しています.一方,データを取得しただけで動物の行動が理解できるわけではありません.大規模かつ複雑なデータををどのように分析し理解するかがこれまでになく重要な課題となっています.データから有益な知識を抽出するタスクは,大きな山(大量の情報)から宝物(有益な情報)を掘り当てるという比喩にちなんでマイニング(mining)と呼ばれています.様々な分野で様々なタイプのデータのマイニング技術が研究されています.このうち,移動軌跡データを対象とする技術はトラジェクトリーマイニング(軌跡マイニング)と呼ばれています.近年,ウェアラブルデバイスや通信インフラの発達によって,ヒトや乗物の移動情報を容易に取得できるようになり,軌跡マイニングの分野は活発に研究が行なわれています.本解説記事では,サーベイ論文[1, 2]の内容を中心に軌跡マイニングを紹介し,本領域でどのようにこれを活かすことができるかを考えてみます.

トラジェクトリー(軌跡)データ まず,軌跡マイニングが対象とする軌跡データとは何かを明確にしましょう.軌跡データとは位置情報を時間軸に沿って計測したデータと定義されます.位置情報としては,緯度と経度の2次元の場合もありますし,地表からの高さも含めた3次元の場合もあります.移動情報を計測するタイミングを時間軸に沿って,t1, t2, …, tTと表し,各時点における位置をp1, p2, …, pTとすると,軌跡データは「(p1, t1), (p2, t2), …, (pT, tT)」と表されます.また,移動の位置と時刻のみでなく,移動時の環境情報(気温,風速など)や内部情報(心拍,体温など)が得られる場合もあり,これらをまとめてxtと表すと,「(p1, t1, x1), (p2, t2, x2), …, (pT, tT, xT)」と表される形式のデータになります(ログボットを開発することで,これまでよりも有益な付加情報xtが得られると期待されます).さらに,複数の移動対象の軌跡データが得られる場合は,このようなデータが移動対象の数だけ得られ,各移動対象の属性(雌雄など)なども得られることがあります.軌跡データからどのような情報を取り出すかは問題によって異なりますが,いくつかの典型的なタスクについて整理してみましょう.

軌跡マイニングのタスク サーベイ論文[1, 2]にならうと,典型的な軌跡マイニングのタスクには,クラスタリング,クラシフィケーション,パターンマイニングなどがあります.クラスタリングとは複数の軌跡を似たような性質を示すいくつかのグループに分けるタスクです.例えば,動物の移動軌跡は採餌,繁殖,休息など,いくつかの目的別行動にグループ分けされると考えられます.クラスタリングを行うとそのようなグループ分類を自動的に行うことができます.クラスタリングを行うには,二つの軌跡の類似度を適切に定義する必要があり,タスクやデータに応じた適切な類似度を定義することも重要な研究トピックの一つです.クラシフィケーションとは複数の既知のクラスへ軌跡を分類することです.例えば,雄と雌の軌跡を分類することで,雌雄の不明な軌跡データが雄であるのか,雌であるのか予測することができます.また,クラシフィケーションがどのように行なわれているかを考察することで,雄の軌跡と雌の軌跡の違いを特徴づける知識が得られることもあります.パターンマイニングについては次節でもう少し詳しく説明します.

軌跡パターンマイニング ここではいくつかの軌跡マイニングのうち,パターンマイニングと呼ばれるタスクについて詳しく説明しましょう.例えば,動物の行動を単純化し,前(Forward),後ろ(Backward),右(Right),左(Left)の4通りに分け,軌跡を「F→B→F→R→R→L」などのように表すことにしましょう.様々なパターンマイニングのうち頻出する系列パターンを抽出するアプローチは頻出系列マイニング(frequent sequential pattern mining)と呼ばれています.頻出系列マイニングを使うと,特定の軌跡データにit一定回数以上観測される部分系列を列挙することができます.このタスクは簡単にみえますが計算アルゴリズムを工夫しないと小規模な軌跡データしか扱えなくなってしまいます.例えば,F/B/L/Rの4つの記号が10回続くようなパターンは410=1,048,546通り存在します.記号の種類が増えたり,長さが長くなったりすれば,どんなに高速のコンピュータでも解けないような計算コストがかかってしまうため,図1のように系列が木構造で表されることなどを利用してこの問題を回避しています.

生物ナビゲーション研究のための軌跡マイニング サーベイ論文[1, 2]では,主に,ヒトや乗物を対象とした軌跡マイニング技術が紹介されています.いくつかの技術はそのまま利用できますが,動物特有の新しい軌跡マイニング手法も考えていく必要があると思われます.以下,筆者の考える動物軌跡マイニングに必要な新しい技術について考えてみます.
生物学の研究では異なる条件のもとで異なって観測される事象に興味があります.例えば,発育のよい動物と悪い動物では行動がどのように違うのか,遺伝的変異がある動物とない動物では移動軌跡がどう異なるのかといった点に科学的な興味があります.このような疑問に答えるには,頻出系列マイニングのように頻度の高い系列を抽出するだけでなく,条件の違いによって頻度の異なるパターンを抽出する必要があります.発育のよい動物に特有の行動パターンを発見できれば,その行動が動物にとってどのような観点で有益なのかを探るきっかけとなります.このようなマイニング技術は比較パターンマイニングと呼ばれていて,これらは前節で述べたパターンマイニングとクラシフィケーションを融合したものであると解釈できます.筆者らのグループでは新たな比較マイニング技術を開発しており,これを本領域の生物学研究者の軌跡データに適用するプロジェクトを行っています.

野生動物を対象とする生態学研究は観測研究であり,まったく同一の条件で実験を繰り返すことはできません.そのため,軌跡データからマイニングされた知識が統計的に有意な情報であるのか単なるノイズであるのかを判定する必要があります.しかしながら,既存の軌跡マイニング技術の多くは検出結果に対する信頼性を評価する枠組を有していません.大規模かつ複雑なデータに対してマイニング技術を適用すると,膨大な候補のなかから「それらしい」パターンが選び出されます.選ばれたパターンに通常の統計的検定を行っても得られる結果(p値など)は正しくありません.これは「選択バイアス」と呼ばれる偏りが生じるためです.筆者らのグループでは,最近統計学分野で注目を集めている「選択的推論」と呼ばれる枠組を用いて選択バイアスを補正し,軌跡マイニング結果の信頼性評価を行う枠組について研究を進めています.

おわりに 計測技術や情報技術の発達によって移動物体の軌跡データが得られるようになりました.これらのデータを分析する技術は「トラジェクトリー(軌跡)マイニング」と呼ばれています.多くの技術はヒトや乗物の移動を対象として開発されたものですが,本領域の対象とする動物のナビゲーションデータにも利用可能です.一方,動物データ特有のタスクも存在するため,本領域の異分野の研究者が集い,新たな軌跡マイニング技術を開発していくことが本領域の発展につながると思われます.

[1] Y. Zhang. Trajectory Data Mining: Overview. ACM Trans. On Intelligent Systems and Technology, Vol. 6, No. 3, Article 1 (2015).

[2] Z Feng and Y. Zhu. A Survey on Trajectory Mining: techniques and Applications. IEEE Access: Special Section on Theoretical Foundations for Big Data Applications: Challenges and Opportunities (2016).

図1.2つの記号FとRの系列を木構造で表したもの.各系列の出現頻度は木構造を下るに従って単調非増加であることを利用して効率的にパターンを抽出することができる.

IT系教員のフィールドワーク体験記 ~粟島編~

 前川卓也(大阪大学 大学院 情報科学研究科 准教授)

我々計画班のメンバーは、本領域を立ち上げるために数多くの議論を重ねてきたのだが、その中でいつの間にか工学や情報学の研究者も実際に現場に出て生態学者らとの相互理解を深めなければならないというコンセンサスが形成されていた。そのため、計画班代表の中で最も年齢の若い私は比較的頻繁に現場に出ている。
私の研究テーマの中で、鳥などの動物に知的なセンサデータロガーを搭載し、適応的に省電力なGPSやビデオなどのデータ計測を行うというものがある。そのため、実際に開発したロガーを動物に搭載してデータ計測を行うという実験に参加する必要がある。これまでに、ウミネコとオオミズナギドリという海鳥のフィールドワークに参加しており、今回は特に後者の体験について紹介したい。

図1 オオミズナギドリに搭載したGPSロガーから得られた移動軌跡。新潟県 粟島(営巣地)から北海道まで採餌を行っている。

オオミズナギドリのフィールドワークは、生態班代表の一人である名古屋大学 依田 憲 教授のチームとともに行っている。我々は新潟県の粟島のオオミズナギドリを対象としており、前川チームは8月の下旬に計二週間程度滞在した。依田チームは毎年粟島でフィールドワークを行っており、我々は今回はそれに同行させてもらう形となった。図2は、依田チームの拠点である釜谷という漁村の古い公会堂であり、年に三ヶ月ほどそこを借りて寝泊まりをしている。前川チームもそこで寝泊まりするという選択肢もあったのだが、夜に出没するフナムシに体をかじられるという話を聞いたため、ひ弱な情報系の人間は辞退して近隣の民宿に滞在することとなった。

図2 フィールドワークの拠点

なお、公会堂を借りて拠点にしていたりすることもあり、地元の方々との良好な関係の構築は必須である。生態学の研究室は工学・情報科学に比べて女性が多く、依田チームのとりまとめ役も女性の博士学生なのであるが、漁村のおじいさん方にかなりの人気者で、釣った魚を差し入れてもらっていることもあった。なお、私はWiFiの入る図4の堤防のところに座って午前中に雑務をこなしていたのだが、話好きの漁師のおじいさんにつかまり、気が付けば一、二時間ということもあった。

図3 集落の方からの差し入れ。私も休日にこれくらいの魚を釣って差し入れると意気込んでいた。

図4 私の仕事場の堤防からの写真。拠点にあるWiFiが入る。海を眺めながらの仕事は格別。

オオミズナギドリの親鳥の調査は夜から始まる。親鳥は昼間に採餌のため巣を出ており、夜に帰ってきたところを捕獲してデータロガーを取り付けるためである。巣にたどり着くためにはかなり急な坂を降りる必要があるのだが、全く明かりもなく危険を伴うため、我々は依田チームの方々が鳥を捕獲してくるのを安全な場所で待機するのである。捕獲するためには巣の中に手を突っ込む必要があるのだが、中はダニやムカデ、ゲジゲジなどの巣窟になっており、こちらもひ弱な情報班には到底無理な仕事である。依田先生の話によると、虫が腕の上をはい回っているとき地球の素晴らしい生物多様性を感じるらしいが、そこまでの相互理解は難しそうだ。

図5 オオミズナギドリの雛鳥と巣のある断崖。雛の体長を計測する調査も行われていた。

捕獲してきた鳥の背中の羽には、図6のように我々の開発したロガーがテープで取り付けられる。このテープはテサテープという市販のテープなのであるが、鳥の羽への取り付けに相性が良いらしく、その発見に関して論文化までされているらしい。そして捕獲した鳥を再び巣に返すと、朝に巣を飛び立ち、夜になると巣に帰ってくるため、そこをまた捕獲し、ロガーを回収するのである。ただ、時には何日も巣を空けることもあるため、次の日に必ず捕まえられるという保証はない。時には2週間も帰ってこないことがあるらしいのだが、雛を育てている8月下旬あたりは比較的頻繁に帰ってくるため、フィールドワークに格好の時期となる。

図6 ロガーをオオミズナギドリに取り付けてもらう。

図7は、我々のロガーが撮影した動画の一部である。粟島と本州の間あたりを飛行中に撮影されたもので、新潟の山々が写っている。他にも、採餌のために海に飛び込むところ、餌場で他の鳥と群れているところなどのシーンが撮影されていた。なお、これまでの記述では情報の人間は何もしていないように思えるが、ロガーの稼働状況を考慮して適宜ロガーのプログラムを修正したり、フィールドワーク体験と称して昼間に断崖の巣を見学に連れて行ってもらったりなど、それらしいこともたくさんしている。私も、今回のフィールドワークを通じてそれなりにたくましくなったつもりであり、生態学者との相互理解に少し近づいた気がする。

図7 ロガーにより撮影された映像の一部

国際研究報告(招聘): Movement Ecology of the bat Nyctalus aviator

Olga Heim (Department of Biochemistry and Biology, University of Potsdam) @B01: Ecology team (Hiryu group) 

Bats represent an especially interesting taxon in the context of navigation and orientation because they adopt their navigational capabilities across several magnitudes of spatial scales. A recent study from 2011 on wild and free-ranging fruit-eating bats that were tracked using the new technology of lightweight GPS tags, showed that bats can navigate to distant fruit trees probably based on a cognitive map of their environment (Tsoar et al., 2011). However, the navigational mechanisms might differ in the case of insectivorous bats, because their prey is highly unpredictable and flexible as compared to the fruit trees used by fruit-eating bats.

Due to the importance of this research field and its potential to solve human-bat conflicts and provide conservation measures, I am interested in investigating the movement and foraging patterns of bat individuals in different habitats using lightweight GPS loggers. The research project Systems Science of Bio-Navigation provides a perfect basis not only to investigate the movement ecology of bats but also provides the opportunity to use the obtained insights for further projects. Therefore, I contacted Dr. Fukui and applied for a research stay in the framework of Systems Science of Bio-Navigation for one month.

I arrived in Kyoto at the end of May 2017 and spend about one week in the lab of Dr. Hiryu at the Faculty of Life and Medical Sciences, Doshisha University. Here, I met the lab members and was able to learn about various very interesting research projects. I participated in a field trip to a tunnel located in the prefecture Fukui in order to retrieve previously attached lightweight GPS loggers from Rhinolophus ferrumequinum nippon. This trip was quite successful, as we could retrieve two GPS loggers. In the following days, I participated in two different flight experiments conducted by Kazuma Hase and Tomohiro Ujino, respectively. Furthermore, I was able to see the rooms and captivity conditions of the bats held at the University.

After my visit at Dr. Hiryus lab, I traveled to Sendai and participated in the meeting of the Systems Science of Bio-Navigation project. Despite my limited language skills in Japanese, I learned a lot about the different and quite impressive projects that are conducted within the Systems Science of Bio-Navigation project. Especially impressive is the wide variety of research fields that are combined in this project and which work on the same goal. This kind of research strategy appears very promising in achieving the aim of a better understanding of navigational mechanisms.
After this quite interesting and insightful meeting, I traveled to Furano (Yamabe, Laboratory of Forest Ecosystem, the University of Tokyo Hokkaido Forest) where I, Dr. Fukui and some students from the lab of Dr. Hiryu started to investigate the movement ecology of the bat species Nyctalus aviator.

In course of the three weeks of my stay, we captured Nyctalus aviator bats on several occasions. The capture sites were always located within a small forest patch surrounded by an agricultural landscape (Fig. 1). In total, we attached a total of 13 GPS loggers on 7 pregnant females (one of which was recaptured and tagged again), 2 non-pregnant females and 3 males (Fig. 2). Overall, we were able to obtain data from one pregnant female (one night) and one male (three nights). The obtained data already show some interesting patterns (Fig. 3). However, we need further data to be able to investigate the movement ecology of Nyctalus aviator. This knowledge could then be used to create new conservation measures or to solve human-bat conflicts (e.g. associated with wind turbine construction (Voigt et al., 2016)).

Finally, I would like to thank the Systems Science of Bio-Navigation project for funding my stay and for giving me this unique opportunity. I am also very grateful to Dr. Fukui, Dr. Hiryu and her postdoc, Dr. Fujioka as well as the students in her lab for the good cooperation and for making my stay a real pleasure.

References
Tsoar, A., Nathan, R., Bartan, Y., Vyssotski, A., Dell’Omo, G., Ulanovsky, N., 2011. Large-scale navigational map in a mammal. Proceedings of the National Academy of Sciences 108, E718?E724.
Voigt, C.C., Lindecke, O., Schonborn, S., Kramer-Schadt, S., Lehmann, D., 2016. Habitat use of migratory bats killed during autumn at wind turbines. Ecological Applications 26, 771-783.

Figure 1 Forest patch with numerous natural and artificial bat roosts.

Figure 2 Nyctalus aviator with attached GPS logger

Figure 3 Feeding route of Nyctalus aviator. Data are pooled.

研究会報告:

2017年6月領域会議報告

藤岡慧明(同志社大学生命医科学部)@B01生態飛龍班

平成29年6月3日(土)と4日(日)に,東北大学片平さくらホールにて,本領域の領域会議が開催されました.この領域会議が計画班と公募班との初めての合同での開催となり,総勢100名程の参加がありました.この二日間での発表は,口頭発表が30件にポスター発表が54件と,とても盛りだくさんな内容となりました.

領域代表の橋本先生による本領域の目的および全体像についての説明から始まり,その後の発表は実に多岐に渡るものでした.革新的ロギングデバイス「ログボット」の現状とこれから,移動スケールが異なる様々な動物の行動実態とその計測手法,画像解析等による行動分類や軌道分析,ナビゲーション研究のための装置や発電システムの開発等々,まだまだ足りませんが,研究チームとしての多彩さに大きなワクワク感を覚えたと同時に,研究領域としての面白さを改めて感じました.私もコウモリの大規模音響ナビゲーションを調べたポスター発表をさせて頂きましたが,まだまだやることがいっぱいあるなぁと感じさせられました.もちろんいい意味で.

会議の最後には,評価委員の小田洋一先生(名古屋大学)と荒井修亮先生(京都大学)から講評を頂きました.その中で小田先生が,“情報系の研究者が実際にフィールドに行って欲しい” と仰られていたのが個人的に印象に残っています.動物の行動計測とその数理モデリング解析を行ってきた私のこれまでの経験から,数理研究に関しては大変若輩ながらではありますが(もちろん行動計測に関しても),その両者が近しくあったとしても,間に簡単に超えられない壁があるかのような微妙な距離感を感じておりました.現象の本質を見抜くためには,この微妙な距離感は大きな障害になると個人的に思います.その点,この新学術領域研究では簡単にその距離を埋めることができるし,生態学や情報科学だけでなく工学や神経科学等のもっと広い学問領域を専門とする研究者が密接に手を取り合えることが,本領域のとても面白いところだと思います.これからの生物移動情報学がとても楽しみに感じたと同時に,他班の方々とも関わってみたいと感じられた領域会議でした.

2017年9月若手合宿参加記

その1

大石紗友美(神戸大学理学部生物学科)@B01公募佐倉班

先日は、新学術領域研究「生物ナビゲーションのシステム科学」若手合宿に参加させていただきありがとうございました。参加する前は、まだ学部4年生なのに参加しても大丈夫だろうか、他の方々の会話についていけるのだろうか、ととても不安でしたが、参加されていた皆様がとても気さくに話しかけてきてくださったおかげで、すぐ周りに馴染むことができ、非常に有意義な2日間を過ごすことが出来ました。

合宿場所である大滝セミナーハウスに着くとすぐにポスドク、博士、修士の参加者によるショートプレゼンテーションが始まりました。制御・情報・生態・神経の4つの分野のお話しを聞くことが出来たのですが、同分野の中でも、コオロギ・クマ・クジラ・ペンギンなど実験生物として様々な生物が扱われており,全く異なる取り組み手法、研究アプローチがなされていることに驚きました。情報工学分野からはそれぞれの研究に関するニーズが報告されました。今回は特にヒトの行動解析・予測に関する研究が多いように思われ、中でも、ヒトが移動をする際に必要とする情報は、他生物にも共通している部分があるように思い、非常に興味深く感じました。

1日目の終わりには懇親会があり、ショートプレゼンテーションでは知ることの出来なかった具体的なお話しを中心に様々なことを聞くことが出来ました。私は、学部4年生ということでショートプレゼンテーションはしていなかったのですが、私が現在卒業研究で行っている『ハリガネムシによる宿主カマキリの陸域から水域への移動の操作のメカニズム』について興味を持っていただいた方が何人もおり、懇親会の場を利用して動画解析の方法や得られた軌跡データの扱い方などについて一緒に考えて下さったことは非常に嬉しく有り難かったです。

2日目のグループワークでは、上記のシーズ・ニーズを融合した共同研究案の提案・検討が行われました。私たちの班は、ハリガネムシによる寄生が宿主の繁殖力に与える影響をコオロギの音源定位を用いて評価する手法を考案しました。3時間という限られた時間の中で、研究対象の選定からアイデアの捻出、データの解析方法、実社会への活用手段の検討まで研究の一連の流れを考え抜くことは想像以上に困難でしたが、北海道大学の設楽さんを中心にポスドク、修士の先輩方が先導してくださったので有意義な議論を行うことができ、最終的には具体的な応用例,派生研究まで導き出すことができました。また、これまで生態・生理学を中心に学んできた私にとって、情報工学のような異分野の研究の捉え方、物事の解釈の仕方、データの解析方法はとても新鮮で、今後研究を進めていく上で役に立つのではないかと思いました。

今回の合宿では生物分野から情報工学分野へ、また情報工学分野から生物分野へ情報提供をしている様子が多く見られ、それぞれの分野が知識を共有し、今後の研究へ活かしていくという意味で、非常に意義のあるものであったと思います。合宿終了後には多くの方と連絡先を交換することができたので、研究を通して何か困ったことや相談したいことが出てきたときにはご連絡させていただきたいです。

その2

佐久間 拓人(名古屋工業大学 特任助教)@A02情報竹内班

2017年9月9日から10日にかけて開催された第二回新学術領域「生物ナビゲーションのシステム科学」若手合宿について参加記を記します。

私は若手合宿といったものに参加したことがありませんでしたが、参加者総計56名というのはなかなか多いのではないでしょうか。大繁盛のおかげか過密なスケジュールとなっており、とても二日間では足りないと感じました。
まず,学部4年生以外の若手が全員自身の研究について発表を行いました。情報・制御・生態・神経と多分野の研究者が集まっているだけに内容は十人十色といった感じで、同じ生物を対象としていても取得しているデータが異なる、解析手段が異なる、目的・目標が異なると実に多様な研究の話を伺うことが出来ました。惜しむらくは一人5分という時間の短さでしょうか。
二日目は若手研究者がなるべく異分野同士になるよう分けられ、グループワークとして新しい分野横断の共同研究を立ち上げるディスカッションを行いました。私の班はコオロギ、コウモリ、ゼブラフィッシュに関する研究を行っている方がそれぞれ1名ずつ、情報系が私を含め2名の計5名でした。分野横断系の共同研究ということで、せっかくだから生物系のコラボをとディスカッションを重ね、最終的にはコオロギを被食者、コウモリを捕食者と想定したコオロギの逃避行動に関する研究について資料を作成し、発表しました。捕食者が地上から来た場合と、空中から飛翔して来た場合とでコオロギの逃避行動に差が出るのではないかと想定しています。

また、統計解析相談ワークショップと題して生物系の研究者からの統計解析に関する相談を竹内研究室のメンバーで受ける時間も設けられ、私も相談を受ける側として参加しました。相談者からは事前に相談内容が送られてはいましたが、実際に会ってデータを見せて頂きながら解決方法を探っていたのでどうしても時間が足りなく感じました。私としても中々すぐに提案出来ない点が自身の力不足を強く感じました。
今回の合宿を通して様々な研究者との交流があり、二日間という短い時間とは思えぬほどの濃い時間を過ごせたと思います。ありがとうございました。

その3

設樂久志(北海道大学 博士研究員)@B02神経小川班

8月9-10日の2日間にかけて、北海道の山奥にある大滝セミナーハウスで第2回若手合宿が開催された。参加された方はみなこう思われたのではないだろうか…「これは高校の合宿か?」と。新千歳空港に集合させられ、そのままバスに乗せられ山奥まで連れてこられたあげく、温泉宿やホテルでもないいわゆる“ザ”合宿地の様なセミナーハウスに缶詰め(※一応、大滝セミナーハウスは温泉を使用)。少なくとも私が過去に体験したことのある研究会やワークショップはこんなんじゃなかったはず…しかし、この“ザ”合宿感のある若手合宿は真の意味で合宿と呼べる研究会になったのではないかと思う。

そもそも今回の若手合宿の目的は、異分野の研究を行っている若手同士がお互いの研究を知り理解する中で、新たな共同研究テーマを考えだそうというものであった。そのため、初日は一人5分間という短い持ち時間の中で現在行っている研究紹介が行われた。制御、情報、生態、神経とこれだけ分野がまたがれば、当然話を理解するのは大変だが多くの目新しさがあったはずである。私自身スライドの中でシーズやニーズが紹介され、自分の研究に生かせる点があるのではないかと考えさせられた。また、若手の研究紹介の合間には竹内先生のトラジェクトリー・マイニングに関する講演も行われた。お話からこの領域の分野がいかに注目を浴びているかを考えさせられた。そして、初日の最後は親睦会。特にここでは何も語りません(なぜか、小川研はやばいですねと言われていた様な…きっと良い意味なはず(笑))。2日目は実際に異分野の若手同士がグループとなり、それぞれの分野を融合させた新たな研究計画を行った。午前中という限られた時間の中ではあったが、どのグループもそれぞれの個性を生かした研究を立案できていた。また、グループワークの裏では統計相談ワークショップも開催され、データ解析のアドバイスもいただいた。

そんなこんなで、あっという間の2日間。最後はちゃっかり新千歳へ向かうバスの中でも研究の話をして、解析に関するアドバイスをいただいてしまった。今回の若手合宿は学会の様な研究を聞くだけの研究会と異なり主体的に異分野交流を行う場であったが、それこそが“ザ”合宿と感じさせるものであったと思う。この様な体験をさせていただき参加された方々には感謝したい。最後に、若手合宿の次の日に小川研では「マルコフ過程って何ですか?」と学生から質問され簡単ではあるが研究室で学生たちにマルコフ過程を紹介する機会があった。早速、合宿の効果が出てきている様だが、皆さんの研究室ではどうだろうか?

実施報告:ひらめき☆ときめきサイエンス

飛龍志津子(同志社大学)

本領域のアウトリーチ活動の1つとして,日本学術振興会による小・中・高校生のためのプログラム「ひらめき☆ときめきサイエンス」を平成29年7月29日(土)に同志社大学 京田辺キャンパスにて実施しました.とても多くの応募をいただきましたが,抽選で11名の中・高生の皆さんに参加していただきました.事前のアンケートでは,生物が大好き,物理が苦手という生徒さんが多い中,プログラムではブレッドボードにオペアンプと超音波センサを使って“電子回路コウモリ”を作る,という体験からスタートしました.自分の体や手などから跳ね返って戻ってくるエコーをオシロスコープで観測すると,「音が本当に返ってきているんだ」ということを実感し,また物体までの距離や角度を手計算で求めて,コウモリはこの計算を脳の中で行っているということに,改めて不思議を感じてくれていたようです.

午後からは,実際に学内で飼育するコウモリに協力してもらい,飛行室の中をぶつからずに飛び回る様子を目の前で観察してもらいました.続いて,コウモリが出す超音波を計測し,パソコンを使って音の分析をしました.コウモリが飛行速度に応じて超音波の周波数を変えて鳴いたり,また超音波を出すタイミングもいろいろ変化させていることを確認し,コウモリが先生となって音の物理の理解を深めてもらいました.その後,どうしてぶつからないで飛び回れるのか,広い野外では何を手がかりにナビゲーションしているのか,など,新学術領域で取り組んでいる最近の研究についても紹介をしました.
実験終了後のクッキータイムの時間では,卒業研究などや大学の学生生活を紹介し,さらに本領域の概要について,依田班による海鳥のGPSデータやビデオロガーの映像などを用いて紹介をしました.参加した生徒さんはもちろん,同伴で参加してくださったご父兄の皆さんもとても興味を持って聞いてくださっていました.本領域の非常に良いアウトリーチの機会になったと思います.

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