新学術領域「生物ナビゲーションのシステム科学」ニュースレター Vol.1(2017年2月号)

目次

領域のあらまし

生物移動情報学とは

背景

私たちの世界はヒトや動物,いろいろな人工物の移動で溢れています.特に動物はその名の通り“動く物”であり,移動することが最も重要な生命活動の一つだと言うことができます.動物でも人工物でも,移動では適切な経路を選択して目的地に到達することが必要になります.この過程を「ナビゲーション」と呼びますが,それには,移動する環境の情報(周囲の映像,音,匂いなど)を把握し,さらに移動する動物体内情報(心拍数,血糖値,神経活動など)を移動行動に反映する能力が不可欠になります.しかし,動物のナビゲーション能力は長い間謎に包まれてきました.例えば,クジラの大回遊やサケの長距離母川回帰といったナビゲーションは,今世紀になってようやく解明の糸口が得られてきた研究フロンティアです.

これまでは,ヒトや動物の移動を追跡して計測すること自体が困難でした.また動物ナビゲーションといってもそのスケールや形は様々であり,生物種毎の個別の研究に留まっていました.しかし近年になって,超小型GPS,携帯型デバイス,データロガー(記録装置),神経活動計測装置などの目覚ましい性能向上が実現され,ヒトや動物が行うナビゲーション中の環境や内部情報の記録が可能となりつつあります.

ねらいと研究戦略

このような背景のもと,私たちは,ナビゲーションをシステム科学や情報科学の手法を用いて体系的に研究する新たな学問領域「生物ナビゲーションのシステム科学」を創設しました.ヒトや動物の様々なナビゲーションを数理モデルとして理解・解明し,将来的な移動の予測や制御を目指します.この目標のために,制御工学,データ科学,生態学,神経科学の専門家が結集し,動物ナビゲーションを計測・分析・理解・検証の4つのプロセスによって研究を進めます(上図).

計測プロセス<ナビ計測>では,各種センサやロガーなど先端的計測装置(ログボット:Logging Robot)を独自に開発し,それを用いて,移動情報(位置や移動速度),ナビゲーション中の外部環境(時刻,気象など)と体内情報(体温,血糖値、神経活動など)を計測します.分析プロセス<ナビ分析>では,センサやロガーで計測された多次元の時系列データを最新の機械学習や画像解析技術によって分析し,移動のパターンや行動のモード(「エサを探索する」や「逃げる」など)と,それらの切替のきっかけとなる環境情報(例えば「風向きの変化」,「捕食者の出現」など)や生体内部の情報(神経活動の変化)を自動的に抽出します.さらに,抽出された情報の統計分析を行います.理解プロセス<ナビ理解>では,分析プロセスで得られた情報を利用して,環境・生体内部イベント情報(動物への入力)と移動パターン・行動モード(動物からの出力)をつなぐナビゲーションの制御システムを数式化し,数理モデルとして表現します.すなわち,動物のナビゲーションに対して,入力値と出力値からシステムを数式で表現する「システム同定」の手法を適用します.検証プロセス<ナビ検証>では,理解プロセスで得られた「ナビゲーション数理モデル」を介入実験と神経活動計測によって検証します.動物を移送したり(野外介入実験),脳へ刺激を与えたり(神経活動介入実験)して人為的に操作した結果が,数理モデルで予測された移動や軌跡と合致すれば,モデルが実証できます.また,モデルに対応した脳神経活動がナビゲーション中に記録できれば,モデルが動物の脳内に実装されていることが証明できます.

さらに,検証の結果に基づいて,新しい計測技術や分析技術が必要となる場合もあるでしょう.このように「計測・分析・理解・検証」サイクルを幾度も繰り返していくことによって,ナビゲーション研究を発展させていくことができるのです.また,ヒトや動物のナビゲーションの数理モデルを作成・検証する手法を整備する事で,いろいろなナビゲーションを同一手順で比較する事もできるようになります.ナビゲーションは動物固有の感覚器官や運動能力に依存しますが,汎用性の高い数理モデルをつくることで,異なる種や異なる移動行動に潜む共通性や多様性が理解できます.さらに,ナビゲーションに共通する数理モデルに基づいた移動予測や効果的な制御方法の考案も可能になります.

組織構成と研究計画の概要

このような研究戦略にもとづいて,本領域では,制御工学(A01),データ科学(A02),生態学(B01),神経科学(B02)の4つのチームに,全部で10の研究計画班を配置しました.A01制御工学チームは,ナビ計測に関する制御工学・ロボット工学技術を発展させ,最先端ロギングデバイスやフィードバック介入装置開発を行います.生態学チームと神経科学チームと共同して小型汎用ロガーをはじめとする長寿命・多機能ロギングデバイス群の開発に取り組み,試作と実環境下での検証を繰り返しながら性能をスパイラルアップさせていきます.また,得られた行動データからナビゲーションモデルのシステム同定を行います.A02データ科学チームは,ナビ計測により得られたデータ分析の基盤を整備するとともに,ヒトの行動計測を担当します.生態学チームと神経科学チームから提供された動物のナビゲーションデータの信号処理,画像処理,統計分析を行うとともに,ヒトの移動データ分析,位置推定,行動認識を行います.B01生態学チームは,バイオロギングにより動物のナビゲーションデータを取得し,生体・環境情報とナビゲーションの関係を理解可能にする数理モデルを作成します.まず,制御工学チームが開発したロガーを用いてナビゲーションの多次元計測を行い,次にデータ科学チームと共同で数理モデル作成を行います.さらに,移送や人工物設置などの野外介入実験でモデルの検証も行います.B02神経科学チームは,動物の行動と神経活動を同時計測し,ナビゲーション機能の神経基盤を明らかにすると共に,介入実験によりモデルを検証します.ラット,昆虫,線虫において,典型的ナビゲーション中の神経活動を大規模計測し,ナビゲーション行動と関連した神経活動を抽出,モデル化します.さらに,フィードバックゲイン調節などによる環境介入や,電気生理学的または光遺伝学的手法による神経活動介入のモデル検証実験を行います.

このような研究計画の実施のためには,全ての研究チーム間の連携が必須になります.領域内の融合研究を実質化するために,大学院生や博士研究員が年あたり共同研究先に滞在する「弟子入り制度」や「若手合宿」を設けています.例えば,工学チームメンバーが生物の飼育および観測に携わったり,また生物チームメンバーが装置自作や解析用プログラムの作成を行ったりします.このような過程で,多面的な研究能力を持つ人材も育てていくことも,この領域の重要なねらいの一つです.

重要性と発展性

ナビゲーションの理解は分野を超えた重要なテーマです.特に最近,技術的な発展,特にビッグデータ,IoT,AIの大ブレイクがもたらすセンサ革命の後押しにより,さまざまな分野で注目が集まっています.情報科学の分野では,米国マイクロソフトリサーチやGoogleを始めとする位置情報サービスに関わる様々な研究機関において,スマートフォンに搭載されたGPSやWi-Fiモジュールを用いたヒトの移動モードの推定や行動推定の研究が行われています.生態学分野では,動物搭載型GPSの小型化に呼応してナビゲーション研究の再興とも呼べる動きがあります.神経科学分野では,最近になって,米国ハワードヒューズ財団のジャネリアファーム研究所を中心として,ナビゲーションの神経基盤予見的な総説や幾つかの論文がトップジャーナルに掲載され始めています.しかし,いずれの場合も特定分野のみ,または個別の共同研究が主体であり,本研究のような複数分野全体にわたる包括的な研究体制は存在していません.本領域では異なる分野の研究活動を包括的に融合する事によって,分野横断的な研究を劇的に促進し,国際的にも独創的なナビゲーション研究をリードする,これまでに例を見ない学問領域を形成します.そこではヒトや動物の多様なナビゲーション研究のための統一的な技術的基盤が整備でき,それを活用することで共通性や多様性を科学的に評価する事が可能になります.

ナビゲーション研究の成果は,単に生物学的な発見や理解にとどまりません.もしナビゲーションを理解・解明し,予測・制御が可能になれば,生物資源の有効活用や,生物多様性の保全などの様々な側面で社会的な課題の解決にもつながります(下図).例えば,「大都市でのカラス被害」,「鳥インフルエンザや蚊が媒介するデング熱などの伝染病の拡散」,「地方都市におけるサルやイノシシによる農作物の獣害」などの社会課題は,生物ナビゲーションに関連するものとして捉えることができます.したがって,本領域の成果によって正確に生物ナビゲーションの予測ができれば,これらの課題に対する有効な解決策を提案できます.また現代は,スマートフォンの各種センサ,街頭の監視カメラ,ウェアラブルセンサなどによる「ヒトの大規模行動計測の時代」に入りつつあります.本領域で創出された移動パターンやイベント発見技術は,独居高齢者や帰宅児童の異常移動パターン検知にも有効でしょう.さらに他の個体と協調的に移動する動物のナビゲーション原理を,他の移動体と協調したドローンや自動車の自動運転制御に応用できる可能性もあります.このように, 本領域でナビゲーション機能を解明するために開発されるデバイスとアルゴリズムは,ヒト・動物・モノの移動を最適化することを可能にして,人間社会の諸問題に対する解決へも応用できるのです.

計画研究

A01制御工学班

生物ナビゲーションのシステム同定と革新的ロギングデバイスの開発

ヒトや動物が自分自身を目的地に導くことを「ナビゲーション」と呼ぶことにします.本研究では,生物ナビゲーションシステムを,入力を環境,出力を移動とするブラックボックスと考えます.そして,多様な入力変化に対して,出力がどのように変動するかを計測し,システムの入出力関係を数学的に表現することを目的とします.その目的のために,動物の移動を計測する革新的なロギングデバイス(ログボット)を開発します.GPS,加速度計,カメラを基本ユニットとし,マイク,気圧計,温度計などと,それらを制御するCPU,メモリ,バッテリーなどを一体化して搭載する20g程度の計測用ロボットです.そして,動物から得られた環境と移動に関するログデータにもとづいてシステムの内部構造を推定します.

(1) ログボットの開発:ログボットプロトタイプを海鳥に装着し,データ取得の検討を行う.ビデオからの移動計測,移動モードの推定,システム同定に効率的な介入刺激等を検討する.

(2) ログボットの小型化・耐水化:ログボットをコウモリ,ペンギンに搭載できるよう,小型化と耐水化に取り組む.バッテリーの長時間化も重要な課題である.

(3) フィードバック刺激・介入:ログボットのオンボードCPUを用いて,計測データをオンライン処理し,処理結果に基づいた介入を実施する.各種の介入実験により,移動の変化を計測し,ナビゲーションもエルの精緻化を行う.

(4) ナビゲーション同定アルゴリズムの開発:ログボットから得られる多次元の情報データ・位置データ・画像データからナビゲーション行動を引き起こす仕組みを数理モデル化する.

海鳥軌跡と環境データ解析用プラットフォームの開発(GPS軌跡,移動速度,高度,クロロフィル,海面温度,風を同時可視化し,地図の上にプロットする)

RTと環境駆動による長寿命・高出力・多機能バイオロギングシステムの開発

ナビゲーションを理解・解明するためには多次元で大規模なデータ取得が欠かせません.このためには,バイオロギングシステムの革新的な高機能化が必要です.

例えば,バイオロギングで用いられるカメラは,電力消費が大きいため,長期に渡るデータ取得が困難です.バイオロギングの長寿命化が実現できれば,数か月に渡る長期のナビゲーションの調査が可能になります.また,既存のロガーは物理的な相互作用を実現したり,移動したりすることはありません.能動的なバイオロギングシステムを開発し,取付け場所の変更や物理的な介入ができれば,新たな知見を得ることができるでしょう.さらに,ロボットテクノロジー(RT)を利用すれば,従来取り付けられない場所への取付けも可能になることが期待できます.

そこで我々は,対象動物を含む環境のエネルギーを利用して必要な動力を得る『環境駆動』というコンセプトをロガーの長寿命化,高出力化のために導入しました.また,『ロボットテクノロジー』を用いて能動的なロガーの開発や取付け困難な場所へのロガーの取付けに挑戦しています.マッコウクジラを主たる対象動物とし,クジラ用ローバーの開発に取り組んでいます.

具体的な研究テーマを以下に示します.

(1) 環境駆動型マッコウクジラ用ローバーの長寿命,高出力,多機能化

(2) カメラタグ取り付け用高機動水中ドローンの開発

(3) 環境駆動型マイクロ発電システムの開発

(4) RTを用いた遠隔介入実験システムの開発

(5) マッコウクジラのナビゲーション理解

クジラ用ローバーのイメージ図

A02データ科学班

ナビゲーション研究のための統計的データ分析基盤整備とヒト移動データ分析

私達の計画班ではナビゲーションデータを分析するためのデータ科学的基盤を整備することを目的としています.ナビゲーションデータとは,ヒトを含む動物のナビゲーション行動をロギングデバイスによって計測して得られるもので,多次元の時系列データとして与えられます.本計画研究の特徴は,特定の動物の特定の行動を対象とするのでなく,汎用的な分析方法の構築を目指すという点にあります.現在,私達の計画班では以下の2つのプロジェクトを進めています.

(1) ナビゲーション行動のパターンマイニング:本プロジェクトではナビゲーションデータを多次元の記号列として表現したうえで,パターンマイニングと呼ばれるアプローチを利用します.パターンマイニングを用いるとナビゲーション行動に頻出するパターンや表現型や遺伝型の異なる個体群に特徴的なパターンを抽出することができます.本プロジェクトでは,さまざまな動物種の様々なナビゲーション行動に汎用的な方法論を構築します. 

ナビゲーションデータからの異常検知とその統計的信頼度推定;本プロジェクトでは,ナビゲーションデータを分析するうえで不可欠な異常検知の課題に取り組みます.異常検知とはナビゲーション時系列のなかで特徴的なイベントをデータに基づいて検出する技術です.本プロジェクトでは,Selective Inferenceと呼ばれる最近注目を集めている統計解析手法をこの問題に適用し,ナビゲーションデータからの異常検知とその統計的信頼度推定を行います.

 

ナビゲーションにおける知識発見基盤の整備とヒトの屋内位置推定

近年のセンサ技術の進展により,ヒトやさまざまな動物の移動データを大規模に取得できるようになりつつあり,移動データから動物のナビゲーション機能を解明することが可能になると期待されます.これまでに生物学の分野では,生物学者の経験に基づいて移動データ(位置座標の時系列データ)を分析し仮説の検証を試みてきました.

一方データ科学の分野では,機械学習や人工知能研究の進展により大量のデータからの知識発見が可能となりつつあり,これらの技術を用いて仮説の立案に有用な知識発見を自動的に行うことを本研究の目的としています.

(1) 統計的に有意な仮説を半自動的に導くため,移動データから自動的に移動モード(探索や高速移動モードなど)の抽出を,生体信号データや環境データからも自動的にクラスタ抽出を行い,移動モードと生体信号データや環境データのクラスタ間に存在するルールを高速に自動発見する手法の開発を行います.

(2) これまでの研究では,研究者が自身で考案した特徴情報を用いて移動データの分析を行ってきました.本研究では,ディープラーニング技術に基づきデータのみから学習された特徴を基にルールなどの仮説・知識を抽出する手法を実現します.

(3) 生物からの効率的なデータ収集を支援するため,データロガーに適応的センシング機能の組み込みを行います.動物に搭載する小型ロガーの最大の問題点の1つは稼働時間であるため,重要なタイミングのみで集中的にセンシングを行うロガーの開発を行います.

観測対象をヒトにまで広げるため,ヒト屋内位置推定基盤の構築・整備を竹内班と共に行います.

 

 

ナビゲーションにおける画像情報分析基盤の整備とヒトの行動分類

カメラで撮影された画像や映像を分析する画像処理・画像認識技術は,現代社会において様々な分野に普及しています.対象は様々であり,顔認識,医用画像処理,リモートセンシング衛星画像処理,監視カメラ映像認識,自動運転のための車載映像認識などに,画像・映像の認識・解析の手法が用いられています.デジタルカメラの急速な普及,大規模データのための機械学習手法の発展,インターネットを活用したビッグデータ収集などが相互作用し,様々な手法が活発に研究されています.

本研究では,ヒトや様々な動物の画像や映像を安定かつ頑健に認識する技術を開発し,本領域における画像・映像情報分析のための基盤技術を構築します.

1.多様で雑多な映像中の人物の行動や動作などを安定かつ頑健に認識することは,未だ重要で挑戦的な技術的課題の一つです.本研究では,パターン認識や機械学習などの手法を用いて,この課題に取り組みます.

2.ナビゲーションを行う鳥類・サケ類・コウモリ類等に取り付けた動物装着型画像ロガーの映像の解析は,現段階では重要なイベントを人間が目で見て判断するという段階に留まっています.このような映像は非常に複雑なため,従来の映像解析手法では処理を自動化することが困難です.そのための自動認識手法を開発します.

B01生態学班

多次元バイオロギングによる鳥類・魚類の長距離ナビゲーション行動の包括的理解

複雑に変化する自然環境下において,野生動物はどのように情報を抽出・処理して長距離移動するのでしょうか?本計画班では,野生動物の中でも特に機動力に優れた鳥類とサケ科魚類を対象として,移動や情報処理にかかるコストや,移動による利益を野外環境下において実測し,長距離ナビゲーションを包括的に理解することを目的としています.

そのために,生理・行動パラメータを野外計測する動物装着型ロガーを開発し,野外調査によりデータを取得します.野外調査は国内だけでなく,国際共同研究を推進して南米や南極でも行い,環境ロガー(GPSや照度など)を用いて移動経路を,生理ロガー(心電図など)を用いて内的状態を記録し,映像ロガーを用いて群れや外敵,餌などの状況を把握します.これらのデータをモデリングすることによって,外的環境から感覚生理を経て移動に至るまでの基本的な挙動を理解し,渡りや母川回帰などの長距離ナビゲーションについて解明したいと考えています.

新潟県のオオミズナギドリ(左)と青森県のウミネコ(右)のGPS移動経路.このような移動経路を基礎にして,それに加えて環境・生理情報をマルチモーダルに取得し,「なぜたどりつけるの?」を科学します

コウモリのアクティブセンシングによるナビゲーション行動の包括的理解

コウモリは超音波を放射し,そのエコーを聞くことで周囲の情報を把握するエコーロケーションを行います.彼らは状況に応じて,超音波の放射タイミングや方向などを動的に変化させることから,その超音波には彼らが「何時・何処で・何を知ったか」に関する情報が含まれています.すなわちコウモリは,ナビゲーションに関する動物の意思や判断を読み解くのに最適なモデル動物と言えます.そこで本研究では,高度に計測したコウモリの超音波と飛行経路を情報科学的に分析し,コウモリの3次元ナビゲーションがどのような原理に基づき設計・計画されているのかを明らかにしていきます.具体的な研究課題としては以下のような内容を計画しています.

(1) 小規模(室内)から中規模(20m四方程度)でのナビゲーション行動を音響と飛行軌跡から多次元に計測し,効率的な移動や捕食,また飛行と音響センシングの協調関係の理解(モデル化)を図ります.

(2) ナビゲーション中の脳波や海馬からの神経活動を計測し,コウモリの3次元空間ナビを支える音響行動と,記憶や空間認知に関する情報処理プロセスとの関係を明らかにすることを目指します.

(3) 個体間インタラクション(同種他個体間や捕食者-被食者間)を伴うナビゲーション行動を多次元に計測し,ナビ行動の機序や神経アルゴリズムの解明を目指します.

(4) 小型GPS音響ロガーを開発し,大規模(数km~数十km)野生下でのナビゲーション計測を行います.(1)で明らかとなった行動アルゴリズムが,より大規模ナビではどのように適応されるか,またロギングデータから外部環境の推定や,個体の状態や移動の予測手法の確立を図ります.

B02神経科学班

線虫の全脳イメージングによる探索型ナビゲーション神経基盤の解明

動物が目的地に向かうナビゲーションは,既に獲得した目的地の記憶に依存する地図記憶参照型,目的地の方向や距離を光や音によって立体的に知覚する定位型,不明確な位置情報に依存する探索型に分ける事ができます.

探索型ナビゲーションは,ヒトおよび動物が不確かな情報に基づいて初めて目的地にたどり着き,地図記憶を獲得するために必要です.また一度地図記憶を獲得した後でも,環境条件の悪化などにより新たな場所に移動する必要が生じた際には探索を行うことになります.すなわち,探索型ナビゲーションは,最も基本的かつ普遍的なナビゲーション戦略です.

探索型ナビゲーションでは,大気中や水中を漂う化学物質(=匂い),断続的に聞こえるわずかな音,景色などの情報に依存しながら目的地にたどり着かなければなりません.従って,探索型ナビゲーションを実現するためには,目的地に関する乏しい位置情報を効率的に抽出して脳活動として蓄積し,その情報に応じて「近傍探査」や「定速移動」といった行動状態を適切に選択する必要があります.このような情報処理は,脳内のどの神経細胞のどのような活動によって実現されているのでしょうか?

本研究計画では,本領域のデータ科学チームおよび制御工学チームとの共同研究として,線虫C. elegansの探索型ナビゲーションをモデルとして,脳活動ビッグデータの新たな解析手法を開発し,新たな脳機能原理の発見を目指します.

(1) 刺激と行動の対応を半自動的に解明するための分析方法の確立:代表的な化学刺激に対する線虫のナビゲーションデータから,刺激に対する行動状態を半自動的に分析する統計学的手法を確立します.

(2) 「刺激」と「全脳神経活動」と「行動」との関連の解明:刺激勾配下をナビゲーションする線虫の全脳神経活動をイメージングし,新たな統計学的手法を開発する事によって,「刺激~神経活動~行動」の関連を数理モデル化し,理解します.

更に領域全体として,ここで開発された手法を,野外での動物行動の理解や,より複雑な動物の脳機能理解に発展させたいと考えています.

昆虫の定位型ナビゲーションを実行する全神経回路における計算過程解明

動物は様々な移動行動の局面でナビゲーションを実行しますが,それを統御する神経基盤の全容は未だによく分かっていません.優れたナビゲーターでありながらシンプルな神経系をもつ昆虫は,ナビゲーション神経基盤を研究するモデル生物として最適です.メスコオロギはオスの誘引歌に対して近づく行動,音源定位を示すことが知られています.この行動における誘引歌の認識や発音メカニズムの研究は進んでいますが,音源へのナビゲーションを実行する神経機構は未解明です.そこで本研究は,この音源定位ナビゲーションを実現する感覚入力~音源方位検出~運動企画~運動制御にいたる全ての神経回路と,回路上で実行される計算過程を理解することを目的として,次のような研究課題を設定しました.

(1) 聴覚的仮想空間(VR)環境下で脳内ニューロンの大規模イメージング計測を行います.誘引歌に対する細胞集団の応答データから刺激方位を予測するモデル(デコーダー)を機械学習によって構築し,そのデコーダーの構成に基づいて刺激方位を表現するニューロン集団を同定します.

(2) コオロギを聴覚VR装置のトレッドミル上で音源定位させ,移動方向,歩行速度,ターン角速度と下行性ニューロン活動を同時に計測します.神経活動データから運動パラメータを予測するデコーダーを作り,その構成から音源への接近速度や進行方位を制御する下行性ニューロンを特定します.

(3) (1)で同定された音源方位を表現する脳内ニューロン群の活動から,(2)の下行性ニュー
ロンの運動制御信号を予測し,その予測モデルから両者を繋ぐ神経回路と演算過程を推定します.

コウモリの探索超音波に対する回避運動についても同様の手法で解析し,音響刺激に対する接近と回避を実現するナビゲーション神経メカニズムも明らかにします.

 

ラットの神経回路基盤同定による地図記憶参照型ナビゲーションの機能解明

我々ヒトは,地図を使うことで自分自身が現在居る場所から目的地へ導くナビゲーションをしています.では,複雑かつダイナミックに変化する自然環境下において驚異的なナビゲーション能力を誇る動物は,地図を使わずにどのように迷わず餌場を見つけているのでしょうか?

脳の深部にあり記憶を司る海馬には,動物が特定の場所を通過したときに高頻度に活動する神経細胞が発見されており,場所細胞と呼ばれています.場所細胞は,トールマンが提唱した心の中の地図(認知地図)となり,動物が地図として使用していることが示唆されています.一方,場所細胞がある海馬を損傷すると,アルツハイマー型痴呆症を発症し,道に迷い徘徊することがあります.更に,最近の研究により,場所細胞が示す位置は,動物が想起・展望する過去,現在,未来の位置であることが示唆されています.すなわち,場所細胞が示す地図記憶は,単なる外部環境の測量図ではなく,目的地へ導くナビゲーションに特化した地図と考えられます.この場所細胞活動を手掛かりにすれば,脳神経細胞レベルのナビゲーション原理が明らかになるかもしれません.

本計画研究では,図に示す研究体制を構築し,以下の4課題を実施します.

課題(1):様々な記憶を伴う課題をラット・マウスに訓練し,その課題遂行中の多次元データと記憶の種類を対応させ比較検討することで,場所細胞の活動動態を手掛かりとしながら,地図記憶参照型ナビゲーションの機能を解明します.

課題(2):課題(1)で解明したナビゲーション機能の脳内情報処理過程を,A02前川・竹内が開発する数理モデルに組み込み,ナビゲーション移動行動を予測します.

課題(3):A01橋本と連携し,刺激の種類や位置を動的に変化させる環境介入や,光遺伝学を活用した神経活動介入を行い,状態遷移モデルによる移動行動の予測性能から,その妥当性を検証します.

課題(4):B01飛龍との共同研究により,場所細胞活動を手掛かりとして,コウモリのナビゲーション機能を分析することで,野外や3次元空間にも一般化できるナビゲーション機能の解明を目指します.

 

国際研究報告

魚類バイオロギングの現状と展望について

B01生態学班 牧口祐也(日本大学生物資源科学部)

私は2015年8月からUniversity of WindsorのTrevor, Pitcher博士とサケ科魚類の繁殖行動における配偶者選択に関して国際共同研究を行っています.その一環として,2015年8月から2016年9月までの約1年間University of WindsorのPitcher研究室に滞在しました.Windsorはアメリカデトロイトとの国境に位置する小さな町です.偶然ですがWindsorは私が所属する日本大学生物資源科学部がある神奈川県藤沢市と姉妹都市提携を結んでいます.

図1:イエローアイランド,バンクーバー

一方,実験は西海岸バンクーバーの北に位置するイエローアイランドという場所で行いました(図1).ここにはYellow Island Aquaculture Ltd.というサケ科魚類の孵化場がありUniversity of Windsorをはじめとさしてさまざまな大学がマスノスケに関する研究を行っています.

マスノスケは河川で生まれ,1-2年の河川生活期を経て海に降ります.1から数年の索餌回遊を経て産卵のために生まれた川に遡上します.河川に遡上したマスノスケは産卵場において配偶相手を選択し繁殖を行います.また,マスノスケは一回繁殖型の魚類であるため,繁殖後にすべての個体が斃死するという特徴を持っています.私はこのマスノスケが繁殖相手を選ぶ配偶者選択というプロセスに着目して研究を行っています.配偶者選択は繁殖成功を最大化するための適応的な行動です.ダーウィンが提唱した性淘汰理論では,雌は発達した二次性徴や求愛行動を基準に雄を選択することが複数報告されてきました.しかし近年,主要組織適合遺伝子複合体(MHC)遺伝子が配偶者の判断基準として重要であることが明らかとなってきました(Milinski 2005).げっ歯類などの脊椎動物の一部はMHC遺伝子由来の匂いを嗅ぎ分け,自らの匂いとは異なる個体を配偶者として選好することが知られています.このMHCは免疫に必要なタンパク質をコードする遺伝子領域であるため,自己と異なる遺伝子型と交配することにより子孫の免疫耐性は多様化すると考えられます.本研究では,マスノスケがの配偶者選択とMHC遺伝子型の違いの因果関係を明らかにすることを目的として実験を実施しました.実験では小型加速度計(以下,加速度ロガー)を魚に装着して産卵行動を分類しました.

図2:人工産卵水路

この孵化場には産卵行動実験のための人工水路があり,この場所で実験を行いました(図2).まずサケ科魚類の産卵行動について説明をします.河川に遡上した雌は,
産卵床に適した場所を探索します.産卵に適した場所を見つけると尾びれを使って産卵床をつくります.一方,雄は体を震わせて雌に求愛をし,産卵床づくりには一切参加しません.雌の産卵床が完成すると雄と雌が同時に放精・放卵し,雌が尾びれを使って受精卵の上に砂利をかけて産卵が終わります.雌はこのプロセスを3-5回繰り返してすべての卵を産卵に使います.一方,雄はより多くの雌と産卵しようとします.その結果,雄同士で雌を巡る争いが頻繁に起きます.この中で雄と雌がそれぞれペアを変えて何度も産卵を行います.産卵行動が始まってすべての個体が斃死するまでおおよそ1週間ほどかかりますが,配偶者選択のプロセスを知るためにはどの雄とどの雌がペアになったのかを知る必要があります.そこで活躍するのが先述した加速度計ロガーです.加速度ロガーをサケ科魚類の背中に装着して,産卵行動を記録するとさまざまな産卵行行動(掘り行動,求愛行動,放卵および放精)に伴った特異的な加速度波形を記録することができます(図3;Makiguchi et al., 2016).複数の個体に加速度ロガーを装着して閉鎖環境で産卵行動を記録すると,放卵・放精の加速度波形と時間データから産卵行動を行ったペアを見つけ出すことができます.現在,加速度データから解析した産卵行動を行ったペアの情報と鰭のDNA情報から解析したMHC型の違いがあるのか解析を行っており,今後学術論文で結果を公表する予定です.

図3:放精(青)・放卵時(赤)における横方向加速度波形

本研究で登場するバイオロギングは動物に計測機器(データロガーや発信機)を装着し,人間が直接観察することができない行動・生理情報を環境情報と同時に記録する手法です.本手法はもともと,海獣類などの大型哺乳類の潜水行動研究のために開発されたものでした.当初の計測機器は比較的大型かつアナログであり,計測項目は水深や水温などの環境情報のみしか記録できませんでした.近年のマイクロエレクトロニクスの発達に伴い,機器の小型化が進み,本手法の魚類への適用が可能になってきています.また,センサの多様化に伴い,さまざまな計測項目の測定,例えば,体温,筋電位,心電図,脳波など生理情報を取得することが実現されつつあります.これにより,野外での魚類の生理的情収集が可能になり,彼らの行動を,周囲の環境といった外的要因に対する内的反応を介した応答として理解することが可能になってきました.しかし,魚類への計測機器の装着・回収の難しさから,これらの研究が進んでいるとは言い難く,ハードルが高いもの現状です.今後,バイオロギングを用いた魚類の行動学・生理学的研究が発展することは,単に魚類のナビゲーションを明らかにするだけにとどまらず,水産的に重要な魚種の資源管理に関連した基礎研究として役立つことが期待されます.

  • Milinski, M., Griffiths, S., Wegner, K. M., Reusch, T. B., Haas-Assenbaum, A., & Boehm, T. (2005). Mate choice decisions of stickleback females predictably modified by MHC peptide ligands. Proc Natl Acad Sci U S A, 102(12), 4414-4418. 
  • Makiguchi, Y., Ichimura M, Kitayama T, Kawabata Y, Kitagawa T, Kojima T, Pitcher TE. (2016). Sperm allocation in relation to female size in a semelparous salmonid. Proceedings of the Royal Society of London, Open Science 3, 160497

 

書籍紹介

バイオロギング2 動物たちの知られざる世界を探る

バイオロギング(Bio-logging)とは,ヒトを含む動物に小型の記録計を装着し,動物の行動や生理状態,動物の経験する環境を記録する手法で,観察の難しい野生動物の生態や行動(たとえばナビゲーション)を解明するのに活躍しています.日本はバイオロギング研究を牽引する国の一つであり,2004年に日本バイオロギング研究会が設立されて以降,シンポジウムによる研究交流や博物館でのアウトリーチ活動などが活発に行われてきました.

その成果の一つとして,「バイオロギング 最新科学で解明する動物生態学」が出版されたのが2009年,約50名の研究者によるわかりやすい解説が好評を博しました.その後7年が経ち,この度,「バイオロギング2 動物たちの知られざる世界を探る」が出版されました.今回も鳥類,魚類,爬虫類,哺乳類などの研究から,フィールド調査奮闘記まで,日本のバイオロギング研究の「いま」が詰まった一冊になっています(目次を出版社HPから見られます).

本領域からは,依田班と飛龍班の代表者・分担者・大学院生らが執筆者として加わっています.

  • 海鳥の渡り行動とその個体差(山本)
  • コウモリの賢い超音波の使い方(飛龍・藤岡)
  • オオミズナギドリの漂流から海流を再現する(依田)
  • バイオロギングは「待つ」学問?(塩見)
  • 空を飛ぶ魚の力と技をデータで解明する–トビウオの飛翔行動の計測に初めて成功(牧口)
  • いかに楽に餌を確保するかに智恵を絞るウミネコ(水谷)
  • 新潟県粟島のオオミズナギドリの未来(松本)

「バイオロギング1」ではバイオロギングの萌芽を,「バイオロギング2」ではバイオロギングの飛躍を感じ取って頂けると思います.どちらも出版社HPやAmazon.co.jpなどから購入できます.

依田憲(名古屋大学大学院環境学研究科)

バイオロギング 最新科学で解明する動物生態学(日本バイオロギング研究会編,京都通信社)

http://www.kyoto-info.com/kyoto/books/wakuscience/biologging.html

バイオロギング2 動物たちの知られざる世界を探る(日本バイオロギング研究会編,京都通信社)

http://www.kyoto-info.com/kyoto/books/wakuscience/biologging2.html

 

体験記

弟子入り:B01飛龍班からB01高橋班へ

B01生態学班 長谷一磨(同志社大学大学院 生命医科学研究科 医工・医情報学専攻 博士後期課程1年)

コウモリはパルスと呼ばれる超音波音声を発し,返ってきたエコーを聴取・分析することで周囲の環境を把握するエコーロケーションを行います.自ら発したパルスに対する微弱なエコー情報に基づき,高速で飛行しながらルートを決定し獲物の探索や捕食を行うコウモリは,聴覚やナビゲーションのモデル動物として最適です.私は,複数のコウモリが同時に飛行する際に,なぜ音声が互いに混信しないかについて,超音波計測技術を用いた行動観測による研究を行っています.しかしながら,自身のエコーと他の個体の音声をどのように弁別しているのか,その脳内の信号処理メカニズムを解明するためには,実際にエコーロケーションを行うコウモリからの神経活動記録が必要になります.

今回私は,自由行動下の動物から多細胞の神経活動の同時記録を行い,その活動を細胞ごとの活動に分離する技術を学ぶために,同志社大学脳科学研究科 高橋晋先生の研究室へ弟子入りさせていただきました.現在までに,以下のことを教えていただきました.①電極作成のために必要なステッピングモータの制御方法.②テトロードと呼ばれる電極の作成方法.①では,Arduino Unoを用いてステッピングモータの回転数や方向,速度を制御し,さらには進捗度合いをディスプレイに表示する方法を学びました.②では,2本のワイヤを折り曲げた先端の4本を,ステッピングモータによってねじりヒートガンで熱することで束ね,テトロードと呼ばれる電極を作成しました.今後は行動下の動物から安定して計測を行うための手術や記録方法などを教えていただき,自身の研究へ還元することを目指しています.またさらに,この技術を利用して,3次元空間内でナビゲーションを行うコウモリの海馬の活動を記録し,エコーロケーション行動の計測・分析を行いたいと考えています.

弟子入り:B02木村班からA01橋本班へ

B02神経科学班 谷本悠生(大阪大学大学院理学研究科 生物科学専攻 博士後期課程3年)

このたび, 新学術領域「生物移動情報学」の助成をいただき, 2016年11月15日 から 11月17日までの3日間, 本領域総括の東北大学大学院 情報科学研究科システム情報科学専攻 橋本浩一教授の研究室に滞在しました. 橋本研究室と我々のグループは, 自由行動中の線虫の神経機能解析を行う世界最高スペックのロボット顕微鏡システムを共同で開発・運用しています.  2016年には, このシステムを用いて線虫ドーパミン細胞の機能分化を解明した成果を発表することができ, 朝日新聞・読売新聞やさまざまなweb記事に取り上げられました. 

橋本研と我々のグループの一連の共同研究では, 神経細胞の活動を光学的に計測するため, 取得した動画像に含まれる神経細胞を高精度に自動追跡するソフトウェアを複数開発しています. しかし, コンピュータビジョン用ライブラリのバージョンアップによりこれらのソフトウェアが最近のクライアント環境で動作しなくなっていたため, この問題の解消およびさまざまなユーザインターフェースの改善などを,橋本研のメンバーの協力の元に行うことができました.

橋本研究室と木村研究室の間では研究進捗や問題解決のため, このような学生の滞在を相互に何度も行っており, これまでにも複数細胞のリアルタイム追跡システムの立ち上げや, 難易度の高い生物学的試料の調整など, 幾つもの問題を最大1ヶ月の滞在を繰り返すことで解決してきました. これらの経験を通して, 生物研究者としての訓練を受けてきた自分も, 次第に画像処理の原理や簡単なプログラミングなど工学的な技術や考え方を理解できるようになりました. また, 異分野の共同研究者と一緒に集中して1つの問題に取り組むことで, 様々な問題が解決し, 新たな方向への研究の発展につながるのだと分かりました.

さらに, 今回の滞在では最新の橋本研での研究成果について大学院生のIlyaさん, Pudithさんから説明を受けて, 生物学的知見から幾つかアドバイスを行いました. このように, 目的のソフトウェアの更新作業が達成できただけでなく, 大変興味深いお話を聞くこともでき, 非常に有意義な滞在になりました.新学術領域研究「生物移動情報学」総括の橋本浩一先生, ならびに領域事務の伊藤様には大変お世話になりました. この場を借りて, 心からの感謝を申し上げます. 

参加報告

第1回生物移動情報学若手合宿

A02データ科学班 尾原和也(大阪大学大学院 情報科学研究科 博士後期課程1年)

2016年11月25日から26日にかけて行われた生物移動情報学若手合宿では情報分野の研究者と生物分野の研究者がそれぞれ研究発表を行い,それに関してお互いに活発な議論が交わされました.

私が発表した研究は、機械学習を用いて生物の異なる特性(性別や病気等)が生物の移動軌跡にどう影響するかを発見する手法についてです。機械学習の分野において多大なる成果を上げているDeep Learning技術を用いて手法設計を行っています。

合宿には情報分野,生物分野の様々な専門の研究者がいらっしゃったので,普段の研究発表とは異なった観点の議論ができました.情報分野の研究者とは機械学習の部分やノードを発見する方法等を議論し,生物分野の研究者とは発見した部分軌跡の生物的な意味を議論したり,実際にいろいろな生物に適用する場合の要件等を話し合ったりしました.また,生物分野の研究者の疑問に対し,情報分野の研究者に回答していただくことがあり,私自身の情報分野への知識を深めると共に生物分野の知識を広めることができ,とても有益な研究発表となりました.

第1回生物移動情報学若手合宿

B02神経科学班 福富 又三郎(北海道大学大学院生命科学院 生命システム科学コース)

「あ,それは面白そうですねぇ」と,ほぼ二つ返事で参加を決めてしまった…

というのも,今回の合宿の参加は,学会と研究室見学のために約2週間渡米した後,前日に帰国したばかりであったためである。時差ぼけのために居眠りをしてしまったらどうしようと,直前に冷静になって焦った。しかしながら,結論から言えばそんなことは全くなく,どの話も自分にとって大変興味深く,有意義な合宿となった。そこで,ここに今回の合宿を参加記として(筆者の理解の範囲で)まとめたい。

1日目は4人の演者による発表があった。東京大学の後藤さんは,「目的地が見えない海上で,渡り鳥は横風を相殺して目的地に向かって飛行することができるのか?」という興味深い疑問に取り組んだ研究を紹介されていた。GPSによる移動経路のデータのみから統計解析によって風速と対気速度(地上からみた実際の速度ではなく,無風を仮定したときの鳥の移動速度)を推定して検証する,という斬新な解析法には驚いた。名古屋工業大学の竹内先生は,軌跡データの解析手法としてdiscriminative sequence mining methodとchange point detection methodという2つの手法を紹介されていた。前者のシーケンス解析は,軌跡データから前・後・左・右といった移動方向を経過時間ごとに文字列化していき,群間(例えばWTとmutant)で頻出するパターンを比較するというものであった。これは直感的に理解しやすく,応用しやすいと感じた。今回の合宿を主導してくださった木村先生は,「生物屋による(ちょっと変わった)機械学習の使い方」を紹介してくださった。決定木と呼ばれる予測モデルを利用することで,野生型における学習前後の違いや野生型と変異型の違いをより簡便に抽出できることを示されていた。ただし,この発見した違いをどのように生物学的な知見に結びつけるかという点に,まだ課題が残されているようだ。大阪大学の前川先生は,時系列データ処理の全体の流れ(前処理→特徴抽出→パターン認識)を丁寧に解説してくださった。配布された資料は非常に充実しており,まるで教科書のようだった。

2日目では,自身の研究について紹介する機会をいただいた。筆者は「コオロギ気流逃避行動のばらつきの状況依存性」について現在研究を行っており,音が先行して呈示されているか否かで気流逃避行動の移動方向のばらつきが異なる,というプレリミナリーなデータを紹介させてもらった。稚拙な発表にもかかわらず,たくさんのコメントをいただくことができ,感激した。発表後に依田先生と後藤さんから,circular statisticsに関する参考文献も教えていただいた。本当にありがとうございました。

今回の合宿を通して,最も印象に残ったのは「“生物屋”と“情報屋”がいかに融合するか」という点であった。特に,生物屋がこれまで見つけることのできなかった事実を,情報屋の手を借りることによって見出すことができる,という点にとても魅力を感じた。今後,この新学術領域の研究がさらなる発展を遂げ,また再び若手合宿が開催されることを願ってやまない。

研究会報告

第12回日本バイオロギング研究会シンポジウム

飛龍志津子(同志社大学生命医科学部)

本領域の後援を受け,平成28年12月1日(木)から12月3日(土)の3日間,第12回日本バイオロギング研究会シンポジウムを開催しました.バイオロギングの分野では近年,様々な計測技術の進歩により,多種多様な生物のナビゲーション情報が得られるようになってきました.そこで今回のシンポジウムでは「バイオロギング×情報科学」と題して,あらゆる生物の移動情報やロギングデータに対して情報科学や数理モデルから迫る新進気鋭の研究者の皆様にご講演をお願いしました. 

本領域からは前川卓也先生(大阪大学大学院情報科学研究科),藤岡慧明君(同志社大学生命医科学部)に招待講演を,さらに若手・学生を中心に多くのポスター発表を頂きました.

招待講演テーマ「バイオロギング×情報科学」

  • 小林博樹(東京大学生産技術研究所)「野生動物装着センサ用の時空間情報補正機構」
  • 岡谷貴之(東北大学大学院情報科学研究科)
  • 「画像認識・空間計測技術の最新動向とバイオロギングへの応用の可能性」
  • 前川卓也(大阪大学大学院情報科学研究科)「ヒトの日常生活センサデータ認識技術と動物データへの応用の可能性」
  • 藤岡慧明(同志社大学生命医科学部)「小規模・大規模空間におけるコウモリの獲物探索ルートに関する実験的、数理的検討」
  • 後藤佑介(東京大学大気海洋研究所)「経路データから鳥の対気速度ベクトルと現場の風を推定する新手法:オオミズナギドリは横風を相殺して帰巣する」
  • 伊藤賢太郎(広島大学大学院理学研究科)「粘菌の探索行動の数理モデル」

またシンポジウムでは本領域の領域説明会も行い,一般の参加者の皆さんに向けて,本領域のとてもよいアピールの機会になったと思います.3日(土)には,シンポジウム講演者および本領域の計画研究代表者らを囲んで,依田憲先生(名古屋大学大学院)オーガナイザーによる座談会を開催しました.参加したバイオロギング研究者らからは,日頃疑問に思っていることやデータ解析の悩み,情報科学への期待感など様々な意見が飛び交い,会場は予想以上に盛り上がりました.

シンポジウムと座談会を通じて,本領域が目指す「動物やヒトの多様なナビゲーションの共通性や多様性を科学的に評価する」ことへのバイオロギング研究者の皆さんからの熱い期待を肌で感じ,また未来に向けての新たな夢も膨らむ素晴らしい機会になったと思います.ご協力いただいた領域メンバーの皆様に心から感謝申し上げます.

シンポジウムの様子

本領域メンバーらを囲んでの座談会の様子

 

奥付

生物移動情報学 新学術領域研究「生物ナビゲーションのシステム科学」ニュースレター

Vol. 1(2017年2月発行)

<領域代表>    橋本浩一 東北大学大学院情報科学研究科

<編集/装丁>   小川宏人 北海道大学大学院理学研究院

玉木徹  広島大学大学院工学研究院

領域事務局:〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-01

東北大学 大学院情報科学研究科 システム情報科学専攻

研究支援者 伊藤可奈

Tel: 022-795-7018  Email: kana.ito.e5@tohoku.ac.jp

領域ホームページ:http://navi-science.org

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