目的

我々の世界はヒト・動物・人工物の移動で溢れており、特に動物にとって移動することは最も重要な生命活動の一つです。移動において、適切な経路を選択して目的地に到達することを「ナビゲーション」と呼び、ナビゲーションには、環境情報(周囲の映像、音、匂いなど)や体内情報(心拍数、血糖値、神経活動など)を、移動行動に反映する能力が不可欠です。

クジラの大回遊やサケの長距離母川回帰といった動物ナビゲーションは、今世紀になってようやく解明の糸口が得られてきた注目の研究フロンティアです。このナビゲーションを理解・解明し、予測・制御が可能になれば、生物資源の有効活用、生物多様性の保全、鳥インフルエンザや蚊が媒介するデング熱・ジカ熱など伝染病の拡散防止、害獣の都市への侵入予防、さらには高齢者徘徊や幼児迷子の行動予測(「見守り」)、車やロボットの効率的な走行制御など、重要かつ広範な社会問題の解決への可能性も見込まれます。
 

 

領域総括からのメッセージ

従来、ヒトや動物の移動を追跡して計測すること自体が困難でした。しかし近年になって、超小型GPS、携帯型デバイス、データロガー(記録装置)、大規模神経活動計測装置などの目覚ましい性能向上が実現され、ヒトや動物が行うナビゲーションの詳細な記録が可能となりつつあります。

にも関わらず、これら先端的な技術が動物を研究する生態学者や神経科学者に用いられる機会は稀でした。またそもそも生物のナビゲーションは多様であり、生物種毎の個別の研究に留まっており、これら計測から得られた「環境からの刺激?神経活動?行動」といった多次元のデータを適切に処理して、重要な因果関係を抽出するためのデータ科学的手法は存在していない事が問題になっていました。

このような背景の元、新学術領域「生物ナビゲーションのシステム科学」は、研究分野の垣根を超え、ナビゲーションをシステム科学的・情報科学的手法により体系的に研究し、ヒトや動物の様々なナビゲーションを数理モデルとして理解・解明し、将来的な予測や制御を目指す新たな学問領域を創設します。この目標のために、制御工学、データ科学、生態学、神経科学の専門家が結集し、動物ナビゲーションを計測・分析・理解・検証の4つのプロセスによって研究を進めます。

ビッグデータ、IoT、 AIの大ブレイクがもたらすセンサ革命はすでに始まっており、ナビゲーション機能を解明するために開発される手法により、モノの移動を最適化できる、つまり「ヒト・モノ・生物の流れを最適化して見える化する」ことが可能になると期待されます。